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2016年12月7日(水)

生存権裁判10年余

憲法・人権の発展へ努力

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 生活保護の老齢加算復活を求めて9都府県で100人を超える高齢者がたたかった生存権裁判は、最高裁が兵庫裁判の原告側上告を棄却し、終結しました。10年以上にわたるたたかいのなかで、運動がつかみ取ったものは―。(岩井亜紀)


 「保護利用者が立ち上がり、それを支える共同が広がった生存権裁判での大きな成果は一度は廃止された母子加算の復活です」。全国生活と健康を守る会連合会の安形義弘会長は、こう強調します。

政府と基本合意

写真

(写真)福岡高裁に向けて入廷行進をする原告ら=2013年12月16日、福岡市

 生活保護の母子加算は老齢加算廃止後の2009年に全廃されました。北海道などの母親が、高齢者に続き母子加算の復活を求めて生存権裁判の原告として立ち上がりました。子どもの貧困が社会問題化するなか、民主党政権(当時)は母子加算復活を明言。原告と国は10年4月に「今後十分な調査を経ることなく、あるいは合理的な根拠もないままに廃止しないことを約束する」などとした基本合意を結び、原告側は訴訟を取り下げました。

 しかし、厚生労働省は現在、各種の扶助や復活した母子加算など生活保護費の見直しを検討しています。

 「基本合意書は加算削減をくい止める武器になる」と安形さん。「合意に基づいて、見直し作業に当事者の声と実態を反映する道を開くべきです」

 生活保護をめぐる裁判は、1957年に朝日茂さんが提訴した朝日訴訟はじめ原告は1人でした。生存権裁判では100人以上に。

 いま、保護基準引き下げは違憲だとする新たな「いのちのとりで裁判」では、1000人近くが原告として立ち上がっています。「生存権裁判は、その土台になっている」。生存権裁判を支援する会会長の井上英夫金沢大学名誉教授・佛教大学客員教授(社会保障法・福祉政策論)は、こう指摘します。

 生存権裁判は9都府県で展開しましたが、支援組織は28都道府県に及びます。この支援組織が社会保障の拡充を求める運動のすそ野を広げています。

 井上さんは「運動の広がりに伴い、『生活保護基準は利用者だけの問題ではなく、最低賃金や就学援助さらには、税負担、保険料負担などの基準であり、すべての人の生活の基準だ』という理解も広がっている」と話します。このなかで、「自分だけでなく、他の人たちのためにも最後までたたかう」と述べるなど原告の権利意識も高まりました。

 福岡の生存権裁判は控訴審で、原告勝利判決となりました。福岡高裁判決は10年6月、老齢加算廃止に至る手続きに問題があるとして、廃止は「正当な理由」がなく不利益変更を禁止した、生活保護法56条に違反していると断じたのでした。

 兵庫の生存権裁判で大阪高裁判決(15年12月)は、原告敗訴も、今後に生かせる判断を示しました。▽国連社会権規約は、日本の法律や憲法の解釈に反映されるべき▽社会権規約は、制度後退の禁止を規定しているから、国が社会保障制度の後退措置を取る場合、その合理性を国が立証しなければならない▽厚生労働相の保護基準変更決定が、制度後退禁止原則に違反すれば、その決定は違憲、違法である―です。

運動はつながる

 安形さんは「安倍政権が『戦争する国』づくりを進めると同時に社会保障改悪路線で格差と貧困を広げている。生存権裁判をはじめ憲法25条(生存権保障)を守る運動は、憲法9条を守る運動につながっている」といいます。

 井上さんは言います。「社会保障・生活保護は人権だ。憲法97条は人権について『人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果』であると明言している。ところが、自民党憲法草案では、全文削除です。憲法12条が国民に求めている『不断の努力』で、憲法、人権を保持し、発展させなければならない」

 生存権裁判 生活保護の老齢加算廃止処分は違憲だとして、処分の取り消しを求め、2005年4月の京都から、青森、秋田、新潟、東京、兵庫、広島、福岡、熊本で高齢者が原告として提訴。兵庫裁判原告側の上告を最高裁が今年11月1日付で棄却不受理とし終結。福岡裁判では、控訴審で一度は勝訴(10年6月14日)し、被告側の上告で最高裁第2小法廷は12年4月に差し戻し、14年10月、最高裁第1小法廷が不当判決を出し、確定しました。


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