2014年5月30日(金)
エジプト大統領選
シシ前国防相が当選
低投票率 独裁・暴力に嫌気
【カイロ=小泉大介】昨年7月の軍によるモルシ前大統領解任を受けたエジプト大統領選挙は28日に投票が締め切られ、直ちに開票が始まりました。地元メディアの報道によると、29日午前の段階でシシ前国防相が各県で軒並み9割以上の得票を得て、一騎打ちの対立候補である左派政治家のサバヒ氏に勝利しました。一方、注目された投票率は4割台と低迷したもようです。
「弾圧下の選挙」 青年ら批判
エジプト国民の間には、モルシ氏の出身母体であるイスラム主義組織・ムスリム同胞団が「独裁」「暴力」を志向したとして、これを嫌悪する感情が広範に存在します。モルシ氏解任劇で中心的役割を担ったシシ氏の陣営は選挙戦で、この国民感情を背景に“テロとたたかう強い大統領”の演出に躍起となりました。
またシシ氏はこの3月まで暫定政権の第1副首相兼国防相を務めた実質的な権力者です。選挙では軍をはじめとする国家機関が同氏を支援し、メディアも持ち上げの大キャンペーンを展開。これらが、治安悪化を改善し、経済を回復してほしいという多くの国民の願いと相まって「圧勝」の結果をもたらしました。
しかし、国民多数が「軍政」復活による「安定」を求めたと単純にはいえません。何よりも、大統領選が異例の展開となったことが事態の複雑さを物語っています。
選挙戦でシシ氏は、自らの「正当性」を示すため、80%の有権者が投票に行くよう訴えました。さらに大統領選挙委員会は、理由なく棄権した有権者には500エジプトポンド(約7000円)の罰金を科すと警告。投票最終日の27日夜には急きょ、2日間の投票日程を1日延長しました。
にもかかわらず、投票率はモルシ氏が当選した2012年大統領選決選投票の52%に及びませんでした。
棄権したのは、いまもモルシ氏の復職を求めているムスリム同胞団のメンバーと支持者だけではありません。「革命」を主導した青年たちもその一部。彼らは本紙にこんな声を次々と上げました。
「国家機関やメディアがこぞって特定の候補者を支援するような選挙はとても公平とはいえない」、「暫定政権がデモ規制法で反対者を次々と逮捕・勾留しているもとでの選挙にどんな意味があるのか」
シシ氏に投票した有権者からも、「もし彼が革命の道を踏み外すようなことがあれば、私たちは再び街頭に繰り出すだろう」などの声が多数聞かれました。
シシ氏は選挙中、「テロの危険」から街頭に一度も姿を現さず、公式の政策も最後まで示しませんでした。今後、大統領としての一挙手一投足に国民の厳しい視線が注がれることになります。