2011年10月31日(月)「しんぶん赤旗」

主張

イラクとリビア

政権転覆の戦争は許されない


 オバマ米大統領が二つの戦争の“終結”を宣言しました。イラクからの米軍の年内完全撤退と、リビアでの北大西洋条約機構(NATO)による軍事作戦の事実上の終了です。大統領はこれらが「世界における米国の指導力の回復を強く裏づけた」と誇りました。

 イラクとリビアでの戦争は、外国がこれらの国に軍事介入してその政権を転覆したものであり、市民に多大な犠牲をもたらしました。オバマ大統領の言葉とは裏腹に、国際社会は二つの戦争で米国が果たした役割と結果を懸念しています。国連憲章に基づく平和維持の強化が必要です。

国連憲章と相いれない

 イラクのフセイン政権もリビアのカダフィ政権も、国民を強権で弾圧した非民主的な政権でした。とはいえ、それを外部から武力によって倒すことは国連憲章に照らして許されません。憲章は紛争を平和的手段によって解決するよう義務づけ、侵略に対処する以外の武力行使を厳しく禁じています。

 イラク戦争は、国連安保理事会の承認を得られないまま、米国が国際社会の批判を押し切って侵略しフセイン政権を倒したもので、明白に違法な戦争でした。

 戦争開始から8年半。米軍完全撤退は、イラクの主権回復にとって大きな前進であり、米国の覇権主義の破綻ぶりを示すものです。

 オバマ大統領は米軍の完全撤退を「終戦戦略の成功」「公約を果たした」と描きましたが、事実は逆です。オバマ政権はイラク戦争の“成果”としても、イランなどへの軍事圧力を維持するためにも、米軍を永続駐留させようと画策してきました。しかし、米国が求める米兵への刑事訴追の免除をイラク側が認めなかったため、断念に追い込まれたのです。

 リビアでの戦争では、英国やフランスが表に立って爆撃を行いましたが、米国も無人機による偵察・攻撃や空中給油機の派遣、中央情報局(CIA)要員の地上展開などで、主要な役割を果たしました。米国では、イラク戦争とは違って米兵の犠牲なしにカダフィ政権を倒すことができたとし、今後に生かせる介入戦略の“成功事例”とする見方があります。

 このリビアをめぐる経緯は検討が必要です。安保理は3月、カダフィ政権に弾圧されていたリビア市民を「保護」するため「あらゆる措置」をとることを認めるとした決議を、中国、ロシア、ブラジル、ドイツ、インドの5理事国が棄権したもとで採択しました。国連憲章が求める平和的な問題解決の手だてが尽くされたとは、とてもいえない状況でした。

 憲章は、侵略や国際平和に脅威となる事態を除いて、加盟国の国内問題への干渉を認めていません。安保理が「保護する責任」を根拠に武力行使を認めたのは新たな動きです。それでも、この安保理決議が政権の転覆を認めているとみなすことはできません。

求められる知恵と努力

 イラクとリビアでの経験は、国際の平和と安全を維持する根本的保障である国連憲章の原則(国際紛争の平和的解決、武力による威嚇または武力行使の禁止)の重要性を浮き彫りにしました。紛争をなくすことはできなくても、紛争を戦争にしないことは可能です。そのためにいっそうの知恵と努力が求められています。





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