2011年10月29日(土)「しんぶん赤旗」
主張
野田首相演説
「覚悟と器量」で暴走するのか
「いま、私たち政治家の覚悟と器量が問われている」―野田佳彦首相は就任後2回目となる所信表明演説をこう切り出しました。
2回目の演説は就任直後の演説にくらべて短く、小話や引用も盛り込んだものでしたが、問題は中身です。増税や環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加、米軍普天間基地の「移設」などで前のめりの姿勢は露骨ですが、国民の不安や批判にこたえる中身がありません。震災復興や原発事故の除染や賠償の具体策もおざなりです。国民にまともな説明もなく悪政に突き進むのは、それこそ暴走です。
国民の批判に向き合わぬ
なにより象徴的だったのは、いま国民の間で大激論を呼んでいるTPP問題で、「ひきつづきしっかりと議論し、できるだけ早期に結論を出します」と交渉参加の方針を繰り返しただけで、国民の批判には一切こたえなかったことです。TPP問題は、野田首相が11月半ばのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議までに交渉参加を表明しようとしているから大問題になっているのです。当の首相が自らの言葉で不安や批判にこたえないのは無責任です。
原則として関税をゼロにし規制を取り払うTPPへの参加は、日本の農業に壊滅的な打撃を与えるだけでなく、医療や食品の安全にも重大な影響を及ぼします。農林水産業団体だけでなく、医療関係者や消費者、中小業者からも参加反対の世論が高まっています。そうした批判にこたえず、交渉参加を押し通すなら、それこそ暴走どころか「独裁」になります。
沖縄の米軍普天間基地の名護市辺野古への「移設」でも、首相が「移設実現に向けて全力で取り組みます」と、ことばを強めて「移設」を強行する姿勢を浮き彫りにしたのは重大です。口先では「沖縄の皆様の声に真摯(しんし)に耳を傾け、誠実に説明し理解を求めながら」とはいいますが、県民あげて「移設」に反対している沖縄の声にこたえる姿勢はありません。国民・県民がどんなに反対しても日米合意の通り「移設」を押し付けるというのは、まさに民主主義を踏みにじる暴挙です。
野田首相は震災の復興、原発事故の収束、経済の立て直しが今国会の課題だといいますが、大きな不安を呼んでいる放射能の除染などについては、抽象的なことばを並べるだけです。内需拡大への転換で異常な円高を是正する抜本策もありません。歳出削減と経済成長による増収で足りなければ「初めて『歳入改革の道』がある」といいますが、増税を押し付ける姿勢はあからさまです。「政治家が自ら身を切る」といいながら、税金を分け取りする政党助成金の削減を打ち出す姿勢さえありません。民意を締め出す国会の定数削減を持ちだしているのは大問題です。
米・財界直結政治許さず
野田首相が口にした「政治家の覚悟と器量」が、国民がどんなに反対しても増税やTPP参加、普天間「移設」を押し付ける「覚悟」だというなら、それこそ国民にとっては願い下げです。それが「覚悟」ならそれこそ開き直りです。
政権発足から2カ月近く、アメリカと財界の要求は何が何でも実行する、野田政権の財界・アメリカ直結ぶりは鮮明です。野田政権の暴走を許さない国民のたたかいが、いよいよ求められます。
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