2011年10月28日(金)「しんぶん赤旗」

「地域主権改革」の名で 地方整備局の廃止・移譲

国は災害対応を放棄するのか

広がる反対 自治体も意見書


 東日本大震災や7月末の新潟・福島豪雨災害、台風12号、15号による災害―。こうした大規模災害の救援・復旧で大きな役割を発揮したのが、国土交通省地方整備局です。いま、政府が「地域主権改革」の名で、地方整備局をはじめとする地方出先機関を廃止し、地方移譲しようとしていることに対して、各地で反対運動が広がっています。 (行沢寛史)


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(写真)地方整備局の廃止、地方移譲に反対して、九州地方知事会に要請する九州生公連の代表=8月4日、大分県庁

15道路を4日間で復旧

 「防災官庁」とも呼ばれる国土交通省の出先機関である地方整備局は、国道や河川の管理など国土保全をはじめ、災害時の緊急対応を担い、北海道・沖縄を除く全国8カ所に設置されています。

 東日本大震災では、地方整備局と河川・国道事務所などが現地の建設業者と連携し、不眠不休の作業で寸断された道路15ルートを4日間で復旧させました。

 これにより被災地への物的・人的輸送が可能となりました。自衛隊や救急隊が被災地へ入れたのも流通経路の確保(復旧)が行われたからです。

 この作業には、全国から地方整備局職員2万人が派遣されました。こうした復旧活動は、台風12号、15号でも取り組まれました。

 全国一律で、迅速な復旧活動ができたのは、国の出先機関として、同じ法律や基準で災害対応機器を常備していたからです。地方整備局は道路・河川などの整備・管理、大規模災害での経験を蓄積しています。これらの活動を専門的に担っているからこそ、緊急時の対応ができます。

 地方整備局が廃止、地方移譲されれば―。国土交通労組の高津公明副委員長は、「地方ごとに指揮系統が異なれば、大規模災害時に全国的な支援が困難になる。国民の安全と安心を守るべき国の防災、災害対応に対する責任を放棄することになる」と指摘します。

地方へ移譲 負担は重く

 20日に開かれた政府の地域主権戦略会議で、野田佳彦首相が出先機関廃止の推進を表明。政府は昨年末、2012年の通常国会に法案を提出し、2014年度中に事務・権限の移譲を目指すとの閣議決定をしています。

 地方移譲されれば、各出先機関の機能を維持できるでしょうか。

 国土交通省は、2010年度までの5年間で予算1兆2800億円、職員2200人を削減されました。地方整備局の職員も毎年200人前後減らされ、深刻な人手不足です。

 その上、財政基盤が弱い自治体に移譲されれば、緊急の災害対応はもとより、防災のための河川整備や砂防事業、日常生活のための道路・河川維持、橋やトンネルなどの補修ができなくなる恐れがあります。

 しかも道路や河川の整備・管理の財源である建設国債(残高245兆円)も地方移譲に含まれる予定です。また、基礎自治体が管理することになれば、新たな地方債の発行など、重い負担を抱えることになります。

 出先機関廃止について議論している「アクション・プラン」推進委員会は、9月に「中間とりまとめ」をだす予定でしたが、先送りされました。

 今年、多発した災害への対応で、地方整備局が大きな役割を発揮したことから、その検証や大規模災害への国のかかわりを議論する必要に迫られたためといいます。

豪雨水害に 保守議員も

 この出先機関廃止に反対する運動が広がりつつあります。国土交通労組や全日本建設交運一般労組(建交労)など官民の建設産業にかかわる労組などでつくる生活関連公共事業推進連絡会議(生公連)が、地方議会に要請しています。

 九州生公連は8月、九州全域をまわるキャラバン行動を展開。国土交通労組九州建設支部の俵野陽一郎書記長は、「多くの市町村議会議員などは『地域主権』に疑問を持っている」と語ります。

 福岡県の遠賀川流域では22自治体のうち18自治体で、「遠賀川を引き続き国(整備局)で管理すること」とする意見書が可決されています。

 そのなかの一つである直方市の渡辺和幸市議(日本共産党)は、「この数年、豪雨水害が起こり、保守系の議員にも、自治体だけでは対応できない、国の責任が必要だとの認識が定着しつつある」と語ります。

 俵野書記長は、「出先機関の廃止、地方移譲は、『国と地方の合意がなければならないもの』とされています。地方がノーといえば実施できません。12月議会に向け、九州すべての自治体をまわって議員と懇談し、廃止反対の世論を広げ、断念させたい」と語ります。





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