2011年10月26日(水)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「朝まで生テレビ!」をはじめ多くの討論番組に出演し、「日曜美術館」の司会も務めた政治学者で東京大学大学院教授の姜尚中(カンサンジュン)さん。そもそもなぜメディアに出ようと思ったのか、聞く機会がありました▼「在日韓国人2世である自分のようなマイノリティー(社会的少数者)がメディアに露出するようになったのは、この20年にすぎない」と姜さん▼「マイノリティーには自らを表象する場は与えられていなかったし、常に判定を受ける側に立たされていた。在日の場合も文化的な居留地をあてがわれ、囲いこまれていた」と言います▼「自分がメディアで発言することで、マイノリティーとマジョリティー(多数者)の境界を越え、日本人対在日の壁を取り払って両者の相互浸透を図りたかった」と語るその根底には、人間は単一の属性に拘束される存在ではなく、多様なアイデンティティー(自己認識)を持っているという主張があります▼インドの経済学者でノーベル賞受賞者のアマルティア・センも、有色人種ゆえにイギリスでさまざまな差別を体験し、近著『アイデンティティと暴力』の中で、人間を一つの集団の構成員としてしか考えない見方は、対立と暴力を引き起こすと指摘しています▼国籍や人種だけにとらわれず、居住地や出身地、性別、階級、思想信条、職業、食習慣、趣味、社会活動を通じて複数のアイデンティティーを持つ自由な個人であること、それらを互いに尊重することが、平和で豊かな社会への一歩かもしれません。