2011年10月21日(金)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 リンドウ、キキョウにアサガオ、ノボタン…。秋の山野や庭を、紫色の花が彩ります▼そして、紫色の果実です。アケビ、ヤマブドウ。きわめつきは、ムラサキシキブかもしれません。ムラサキシキブは、日本、中国、朝鮮半島に育つアジアの木です。いくつかの種類があって、庭に植えられるムラサキシキブにはコムラサキが多い、といいます▼みつめていると、引き込まれて一緒にほほ笑みたくなるような、不思議な色合い。小さな一粒一粒に、なにやら大切な秘め事をしまい込んでいるようにもみえます。名前はもちろん、『源氏物語』の作者、紫式部からきています▼もともとの名は、「ムラサキシキミ」でした。シキミは漢字で「重実」です。それを誰かが、発音の近い有名作家の名に変え、美しい実のなる木を世に広めたらしい。江戸時代の話です。いまの人が、バラの品種に「イングリッド・バーグマン」と、俳優の名前をつけているのに似ています▼紫色がなぜ「むらさき」とよばれるのか、次のような説を知りました。昔、草のムラサキの根に含まれる色素で染めた色を紫といい表した。口紅の原料に用いられる草のムラサキは、群れて咲く「群ら咲き」の意味だったとか。ちなみに、ムラサキの花は白い▼紫式部と並び立つ平安時代の女性作家、清少納言も紫色を好んだとみえます。たとえば、「織物(の色)は 紫。白き」(『枕草子』)。彼女もやはり、神秘の小宇宙に誘い込むような、秋の紫色に魅せられた1人なのでしょうか。





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