2011年10月20日(木)「しんぶん赤旗」

「綱領教室」志位委員長の第8回講義

第3章 世界情勢―20世紀から21世紀へ(3)

すすむ世界の構造変化


 第8回「綱領教室」(18日)の講義は、第3章「世界情勢―20世紀から21世紀へ」第8節最後の段落からスタートしました。

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(写真)植民地大国だったイギリスとフランスの変化について説明する志位和夫委員長

世界経済危機とマルクスへの注目

 志位和夫委員長が最初に話したのは、「資本主義から離脱したいくつかの国ぐに」における「社会主義をめざす新しい探究」についてです。

 中国は1978年の「改革・開放」、ベトナムは86年の「ドイモイ(刷新)」以来、「市場経済を通じて社会主義へ」という路線を歩んでいます。

 そのもとで、「全体としていうなら、経済の大きな発展、貧困の削減が進んだ」として、中国が「絶対的貧困」(世界銀行の基準で1日あたり1・25ドル以下の生活水準)をどれだけ減らしてきたかを、ホワイトボードにグラフで示しました。81年に8・4億人(人口の85%)だった「絶対的貧困」が、2005年には2・1億人(16%)に。国際的にも「中国の成功は明らかに、この全般的な進歩において主要な役割を果たしてきた」(08年の世界銀行・政策研究報告書)と評価されていることや、ベトナムでも93年からの16年間で絶対的貧困を64%から13%に減らしたことを紹介し、「中国やベトナムが選択した道は合理的なものと考えています」と強調しました。

 同時に、中国、ベトナムなどの現状を評価する場合に、「指導勢力が社会主義の事業への真剣さと誠実さを持っているかどうかが何よりも重要になります。ただし、私たちは、それぞれの国の内部で暮らしているわけではないから、指導勢力のまじめさをはかる基準としては対外関係しかありません」とのべました。

 そして、日本共産党と中国共産党との関係を振り返り、98年に関係を正常化する過程で中国の党指導部がとった態度、その後の両党指導部間の一連の会談、05年から始まったマルクス主義の理論交流などの歴史をたどり、「この全体を通じて誠実さ、真剣さを評価しています」とのべました。

 同時に、それがその国のすべてを肯定するものではなく、綱領に「政治上・経済上の未解決の問題を残しながらも」とあることを指摘。こうした問題について日本共産党は、「攻撃や干渉には公然と反対する。そうでない限り、国内問題については全般的に内政不干渉の原則を守り、批判的な発言は、国際的な性格を持つ問題、世界への有害な影響が放置できない問題に限る」という「原則と節度」を守ってきたことを強調し、中国の政治制度、「反日デモ」、チベット問題、人権保障の問題に対して、言うべきことを率直に、かつ節度を持ってのべるという姿勢でのぞんできたことを紹介しました。

 これらの国の現状と今後をどうみるか。

 一つは、「できあがった社会主義を代表する国ぐに」ではなく、「社会主義をめざす新しい探究が開始」された国ぐにだということです。経済規模では日本を抜いたが、中国自身が認めるように「大量の貧困人口を抱える発展途上国」だと指摘。この「探究」は誰も歩き通したことのない道であり、「模索や試行錯誤は避けられないでしょうが、ソ連のような致命的誤りを再現させないことを願い、それに役立つ交流をしたい」と語りました。

 もう一つは、これらの国ぐにが世界政治・経済に占める比重が年々大きくなり、いやおうなく資本主義と対比されるようになっていることです。内政でも外交政策でも社会主義の精神を発揮するとともに、「『生産者が主人公』という大原則が貫かれてこそほんものになる。そこへの接近や努力について注目したい」と指摘しました。

 第9節は「世界資本主義の現状をどうみるか」です。志位さんは、資本主義の諸矛盾についてのべた第一段落について「短いが大変詰まった内容が書いてあります」とのべ、とくに、08年秋のリーマン・ショックに始まる世界経済危機について詳しくとりあげました。

 危機の性格を第25回党大会決定では「金融危機と過剰生産恐慌の結合」と指摘しましたが、IMF(国際通貨基金)の金融委員会や専務理事、世界銀行総裁が相次いで「危機の新たな危険な段階に入った」などとのべていることを紹介。とくに失業と格差がいよいよ深刻で、ILO(国際労働機関)が9月下旬に出した報告で、リーマン・ショック後にG20(主要20カ国・地域)で2000万人が失業し、世界全体の失業者が2億人に達し、世界大恐慌のピーク時とほとんど変わらず、さらに悪化すると見ているとのべました。

 ここで志位さんは、「たいへん印象的なのは、わがマルクスに新しい注目が集まっていることです」とのべ、受講生の注意を引きつけました。紹介したのは、アメリカの通信社が世界に配信し、各国の主要紙が掲載した、金融界の大御所の一人でスイス大手銀行UBS上級経済顧問のジョージ・マグナス氏の論評「マルクスに世界経済を救うチャンスを」です。

 マグナス氏は「金融パニック、抗議、その他、世界に影響を与えている害悪の連続をいかに理解するか苦労している政治家は、ずっと昔に世を去った経済学者マルクスの著作を勉強するのが賢明だ」と、『資本論』を引用して、「一極への富の集積は、それゆえ同時に、窮乏の蓄積である」こと、「過剰生産と過少消費の矛盾」が「恐慌の究極の根拠」だと指摘しています。

 志位さんは「前回の『古典教室』で学んだことがそのまま書いてありますでしょ」。うなずきながら聞いていた受講生に笑みがこぼれます。マグナス氏が、危機の対処法として雇用を優先し、総需要と所得を伸ばし、家計の借金を減らせと主張していることも紹介しました。

反核・平和の目標も共同も広い視野で 

 志位さんは、綱領の「帝国主義論」の理論的発展に話を進めました。

 20世紀初頭は「独占資本主義国=帝国主義国」と言って基本的に間違いはなかったが、21世紀のいまはそうは言えないことを、「植民地帝国」だったイギリスとフランスの「脱植民地化」のプロセスを例にわかりやすく示しました。両国の本国と植民地の面積の大きさを対比してホワイトボードに示し、旧植民地との関係が大きく変わったとのべた志位さん。イギリスが旧植民地53カ国とつくる「コモンウェルス」の特徴や、TAC(東南アジア友好協力条約)加入の際にフランス外相が「対等かつ均衡であることを望みます」と演説したことなどをあげました。

 現綱領では、ある国を「帝国主義」と呼ぶためには、その国が経済的に独占資本主義の国だというにとどまらず、その国の政策と行動に侵略性が体系的に現れているかどうかを基準にすることにし、アメリカが現にとっている政策と行動を徹底的に明らかにしたのちに「アメリカ帝国主義」という規定づけをおこなっています。

 志位さんは「この帝国主義論の発展がもたらした実践的意義はたいへん大きい」とのべ、3点を指摘しました。

 第一に、綱領第4章で「国連憲章に規定された平和の国際秩序」など8項目の平和外交の方針は、独占資本主義の国ぐにも含めた目標として提起したものであり、それは現実のものとなっている。

 第二に、アメリカ帝国主義と他の独占資本主義国の矛盾を「帝国主義陣営内の“コップの中の嵐”」でなく、世界の平和と進歩にかかわる、より深い視点からとらえることができる。

 第三に、「アメリカの動向もよりリアルに見ることができるようになりました」として、ブッシュ政権2期目に現れた変化を複眼でとらえて対応してきたとのべました。

 ここで、「オバマ政権をどうとらえるか」として、その変化と限界について解明。核兵器政策では、09年4月のプラハ演説で「核兵器のない世界」をめざすとのべ、国際政治に肯定的な影響を与えましたが、「核抑止力論」という限界も明らかになっているとのべました。

 軍事戦略全般ではどうか。ブッシュ政権とオバマ政権の「国家安全保障戦略」を対比し、「ブッシュ時代からの変化がありますが、同時に先制攻撃論、単独行動主義を否定していないこともリアルに直視すべきです」と指摘しました。

 昨年の訪米体験にも触れ、米政府と米軍普天間基地撤去問題で議論したことを振り返り、「こういう行動ができた根本には綱領路線の発展があったということを実感しています」と語りました。

 最後に、第10節の「国際連帯の諸課題」に講義を進めました。

 「20世紀に進行した世界の構造変化のもとで、21世紀の社会進歩の国際連帯には広大な可能性が広がっています。そこをよくみて世界に働きかける必要があります」と志位さん。

 「国連憲章に規定された平和の国際秩序」を擁護し、「国連憲章を侵犯する国は許さない」という日本共産党の立場が、イラク戦争反対の多数派を結集するうえで大きな力を発揮したことを、中国、南アジアや中東諸国への野党外交の体験を交えて語り、「この立場なら、『親米』の国も含めて、世界の圧倒的多数の国々との共同が可能になり、そして、世界で多くの人が立ち上がりました」と力を込めました。

 さらに「核兵器のない世界」をめざすたたかいの到達点と展望を、1945年に核兵器が出現して以降の歴史をたどって解明。1968年に締結されたNPT(核不拡散条約)は、五つの大国だけが核兵器を持ちながら、他国には非核保有を義務付けるという差別的な不平等条約――特定の核兵器国の核保有を独占する枠組みとして出発しましたが、90年代後半になって、非同盟諸国、「新アジェンダ連合」などの努力によって、NPT第6条の核軍縮・廃絶条項をテコに核兵器廃絶を核保有国に迫る枠組みに変化し、2010年のNPT再検討会議は「文字通り世界の構造変化を実感した会議となりました」。

 この間の日本共産党の活動に対して、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長から「核兵器のない世界をつくるというわれわれ共通の願いを実現するために貢献するとの決意を表明したことをうれしく思います」という返書が届いたことを報告し、「日本共産党も政党として市民社会の有力な一員として国連との共同がぐっと進みました」と感慨を込めてのべると拍手がおこりました。

 「野党外交が国連との関係でも、こういうところまで到達しているのはたいへんうれしいことです。世界をここまで変えたのは、世界の構造変化とともに、日本では被爆者の命がけのたたかいと反核平和のねばりづよい運動があったからです」と結びました。





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