2011年10月19日(水)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
昔々の中国、晋の時代の話です。都を移すかどうかをめぐって議論が交わされました▼長老たちが口をそろえます。「新しい都は土地が肥え、塩も近くでとれる。国は富み、君主も安楽です」。「国利君楽」です。しかし、重臣の1人が猛反対します。「土地や塩は国の宝だが、国が豊かすぎると民がわがままになり、ひいては君主も貧しくなります」▼都の移転はとりやめ、と決まったそうです。時が移り、「国利民福」という言葉が登場しました。わが国で、明治のころに生まれたらしい。いまの世にあっては、国利つまり国益と人民の幸福は、切っても切れない間柄なのでしょう▼先週、日本経団連の米倉会長がいいました。「できるだけ早くTPP(環太平洋連携協定)交渉への参加を決めてほしい。交渉の場で…国益の確保を図るべきである」。おやおや、財界トップが「国益」とは、よくおっしゃいますね▼財界は、なにかといえば「会社が海外に出る」です。震災の復興へ力を合わせるときに、大企業が応分の税負担を求められると、“ならば海外に出る”。原発のこわさが誰の目にもはっきりしているときに、“原発を動かさないと電力不足だから海外に出る”▼TPPは、国民の食の土台はもちろん、国土と産業、人々の暮らしを壊します。しかし財界は、“TPPに入らないなら海外に出る”。「国利民福」はどこに? 国の豊かさより君主の支配を重んじた晋の重臣にも似て、一部の会社の「社益」のため国を捨てようとします。