2011年10月19日(水)「しんぶん赤旗」
TPPが国内の制度壊す
豪・NZで批判
薬価抑制 米業界が敵視
環太平洋連携協定(TPP)の9カ国交渉に参加しているオーストラリアやニュージーランドで、TPP反対の声が高まっています。労働組合や団体、個人からなるニュージーランドの「TPPウオッチ」は、「TPPは事実上、秘密裏に立案されて、将来の政策と法律を決める将来の政府とわれわれの民主的権利を縛る大企業の権利章典だ」と批判しています。
両国で特に憂慮されているのは、医薬品を国民に安く供給する制度を、米国の製薬業界が敵視していることです。米国を含む9カ国のTPPで、この制度が崩壊するという危機感が広がっています。
オーストラリアは、医薬品給付制度(PBS)で医薬品取引を規制し、薬価の患者負担を低く抑えています。新薬は、同じ効能を持つ特許権切れのジェネリック医薬品を参考に卸売価格を規制され、補助を受けた小売価格で販売されます。
PBSは、第2次世界大戦後に着手され、1980年までかかって整備されました。先進国の中で最も安く医薬品を提供できる制度だと定評があります。
米製薬業界がPBSを目の敵にしているのは、新薬の知的財産権を使って利益を上げる妨げになるという利己的な理屈からです。
オーストラリアと米国の自由貿易協定(FTA)の交渉で、米側がPBSをやり玉に挙げました。現在のTPP交渉で再び蒸し返されかねません。「オーストラリア公正貿易投資ネットワーク」は、「健康を売り渡すな」と、TPP反対を訴えています。
ニュージーランドでも事情は同じです。医薬品管理庁(PHARMAC)が医薬品を買い入れ、安く供給する制度があります。TPP交渉で、この制度も米側の標的にされています。
看護師協会など医療団体は、「多国籍製薬企業にPHARMACの立派な仕事を脅かさせるな」と訴えています。50歳以上の高齢者の団体「グレー・パワー」も、「PHARMACに手を出すな」と声を上げています。
両国の例からも分かるように、TPPは、貿易や関税にとどまらず、各国の国内制度を破壊した上、将来にわたって隷属させるものです。 (北川俊文)