2011年10月9日(日)「しんぶん赤旗」
生活保護 職業訓練を“要件に”
厚労省検討 欠席者は受給廃止も
雇用保険を受けられない失業者に月10万円を給付し職業訓練を行う「求職者支援制度」が10月から法制化されたことを理由に、同制度を生活保護受給の事実上の要件とすることを厚生労働省が検討していることがわかりました。職業訓練を欠席した場合、保護を停・廃止することも打ち出しています。生活保護法の改定に向けて非公開で行っている国と地方の協議のなかで、厚労省が示したものです。
厚労省は協議の中で、生活保護の適用の前に、他の法律による扶助を優先して適用するという生活保護法の規定を引き、求職者支援制度の法制化により、同制度が優先すべき扶助の「対象になる」との見解を示しています。
そのうえで厚労省は、生活保護受給者が同訓練を「合理的理由なく利用しない場合や訓練を欠席する場合には、指導指示など所定の手続きの上で保護の停・廃止ができることとするのが適当ではないか」と述べ、求職者支援制度を活用しない場合、保護を廃止することを打ち出しました。
協議に参加している自治体側からは「現状の雇用情勢を総合的に判断すれば、保護の停・廃止は難しい」との声が上がりました。
解説
生活保護の要件に求職者支援制度
実態見ない厚労省
厚労省はこの間、生活保護受給者の急増、なかでも働ける年齢層の増加を問題にし、その層を生活保護から追い出すための制度改悪を検討しています。求職者支援制度を生活保護の事実上の要件にしようとするのもその一環です。求職者支援制度を関門にして受給者をせばめ、訓練を欠席したことを理由に保護を打ち切る狙いです。
同省は、「職業訓練の活用によって就職実現が期待できるにもかかわらず、合理的な理由もなく利用せずに漫然と保護を受給することは国民感情としても認められないのではないか」と述べています。しかしこれは、あまりに実態にあわない議論です。
求職者支援制度は10月から法制化されましたが、訓練の内容は地域によってばらつきや偏りがあり、希望する訓練が受けられるとは限りません。受講したら必ず就職できる保証もありません。
自立生活サポートセンター・もやいの稲葉剛代表理事は「そうした訓練を生活保護の要件にするのは、職業選択の自由を奪うものだ」と批判します。訓練を提供する事業者には、就職率を一定程度あげることが求められているため、「就職の見込みが低い人が受講をはねられるおそれがある」とも指摘します。
生活保護の改善を求める生活保護問題対策全国会議は、▽求職者支援制度の給付金は生活保護法にいう「他の法律に定める扶助」に当たらない▽他の法律による扶助を「優先」することと「要件」とすることは異なる―などをあげ、厚労省が同制度活用を受給の要件にすることは違法だと指摘しています。
生活保護制度の見直しを議論する国と地方の協議では、自治体側から慎重論が出ています。しかし、政令指定都市長の集まりである指定都市市長会は、7月の厚労省への緊急要請で求職者支援制度を生活保護に「優先する制度として定めること」を要望しています。今後の議論の成り行きは予断を許しません。
働ける年齢層の生活保護が増えているのは、リストラ、非正規化などの雇用破壊と中小業者の経営悪化などで働きたくても職がないからです。(グラフ)
生活保護受給者が、「漫然と保護を受給」しているかのようにいう厚労省の主張は、現実を見ないものです。 (鎌塚由美)
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