2011年10月6日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
牛も泳ぎます。奄美大島で、9月末の豪雨にさらわれた牛が泳いで住みかに帰りました▼川に流され、海に出て、さらに5、6キロ。10キロ離れた海岸でみつかった牛は、繁殖用の5歳の母牛です。飼い主が「ききょう」と名づけていました。救いにかけつけた龍郷(たつごう)町の職員とともに泳いで、6日ぶりに農場へ▼飼い主は、勇気づけられたようです。「いっしょに農場をやり直したい」。流された41頭のうち13頭が、命を落とすか行方不明のままです。水害を防ぐため、堤防の修理を町に何度も頼んでいました。ちなみに4本足の動物は、頭が水の上に出る体つきで、歩くように犬かき形で泳げます▼ことし最初に手にとった2012年版の暦は、「富山和子がつくる―日本の米カレンダー」(水の文化研究所)でした。「米カレンダー」なのに、表紙は草むらに群れる牛の写真です。福島県の飯舘(いいたて)村。防ぐのがむずかしい、原発災害に苦しむ村の牛たちです▼富山さんは、急いで表紙を差し替えたのでした。「自然の災害に加えての深刻な人災、報道災―。今度ばかりは怒り抑えがたく…」。富山さんは、農業が滅べば日本の文化の土台も失う、と警告します▼東日本大震災のあと、松島・瑞巌(ずいがん)寺の檀家さんが、やっと通じた電話で富山さんに語ったそうです。「家も米カレンダーも流され、明日が何日かもわかりません」。2週間ほどたち、電話がありました。「がれきを片付けていたらカレンダーも出てきた。泥を洗い塩出しをして、使っています」