2011年9月29日(木)「しんぶん赤旗」

主張

市場化テスト

失敗認め悪質企業排除せよ


 行政機関と民間企業が公共サービスの担い手を競争入札で決める「市場化テスト」の失敗と破綻がいまや覆いがたくなっています。

 不動産や法人の登記という国民の財産・権利、社会的信用にかかわる法務局の業務に競争入札が導入されて4年になります。労働者を安く使う人材派遣業者が参入し、これまで事務を担ってきた大量のベテラン労働者が失職しています。新規参入企業のなかには、社会保険料過少支払いなど不正行為を行う悪質業者まで現れ、国の責任が厳しく問われています。

国がつくる「貧困労働」

 問題の企業は「アイエーカンパニー」など同一グループの2社。法務省の登記業務に市場化テストが導入されて以降、低価格入札を武器に、今年度以降2年間の委託先で47法務局297庁中19局135庁をアイエー社が落札するなど、急速に参入拡大しています。

 日本共産党の井上哲士参院議員は国会で、▽自社の商業登記簿謄本の不実記載▽年金や労災、雇用保険の過少申告▽残業代不払いや一方的な雇用関係の変更―など、その「低価格」の背景にある違法行為の数々を厳しく追及しました。政府も「非常にいわくつきの業者の参入は由々しき事態」(仙谷由人法相=当時)と認めざるを得ず、自社の登記事項証明書を不正に取得した問題で5月から4カ月間、業務停止処分にしました。

 法務局の登記にかかわる証明書発行等の事務は1971年以来、法務省の外郭団体である「民事法務協会」が担ってきました。事務量が飛躍的に増えているのに、国家公務員の定員が年々減らされるなか、財団法人を設立して事務の一部を担わせる手法がとられたのです。職員の多くは勤続20〜30年でも年収300万円程度、複雑な登記事務に熟練した技術で、法務行政を末端で支えてきました。

 ところが、2006年に自民、公明、民主が成立させた市場化テスト法で一般競争入札が導入され、民間企業による低価格受注が横行しました。「協会」は各地の入札で敗北し、不正企業の参入や短期・不安定な雇用が広がる一方、熟練した協会の職員はすでに1400人もが失職しています。

 法務局の現場では、「待ち時間が長くなる」「業務に必要な専門用語が通じない」など明らかなサービスの質の低下が起きています。協会の職員が、落札した民間企業で同じ仕事を続けようとしても、最低賃金に張り付いたような低賃金、劣悪な条件でしか働けません。

 市場化テストは、公共サービスの「質の維持向上と経費削減」というふれこみで導入されました。現実には、コスト削減が第一にされ、低額の予定価格、ずさんな業者選定がまかり通り、技術や労働環境の整備などは二の次にされています。起こっているのは、公共サービスの破壊と大量の「官製ワーキングプア」の出現です。

公共サービス責任果たせ

 人権行政を担う法務省の足元で、これほどの不条理がまかり通っていることは驚きです。法務省は、協会が9月末にも解雇しようとしている労働者の知識と経験を生かす雇用を確保し、悪質業者とは契約解除で手を切るべきです。

 国民の生活にたいする国の責任を投げ捨てる公共サービス破壊、雇用破壊の路線を根本から改めることが強く求められています。





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