2011年9月26日(月)「しんぶん赤旗」
主張
「中間層復活」
非正規労働改善なぜいわない
野田佳彦首相の持論のひとつが、「分厚い中間層の復活」です。「かつてわが国は分厚い中間層の存在が経済発展と社会の安定の基礎になってきた」「中間層にあっていまは生活に困窮している人たちも増加している」「あきらめはやがて失望に、そして怒りに変わり、日本社会の安定が根底から崩れかねない」(所信表明演説から)―。
見過ごせないのは「中間層」復活のための野田首相の主張は、「社会保障改革」はいっても、肝心の非正規労働の改善など雇用問題にはほとんどふれないことです。なぜふれないのか、それでほんとうに「中間層」が復活できるのか。
急速な貧困と格差の拡大
野田首相も認めるように、かつて「一億総中流」とさえいわれた分厚い「中間層」がいまや見る影もないのは、貧困と格差が急速に拡大しているためです。政府の統計でも、「貧困線」(可処分所得の中央値の半分、2009年は112万円)に満たない世帯員の割合は16%と、ほぼ6人にひとりが「貧困」状態です。年収が200万円未満の給与所得者が昨年、5年連続で1000万人を超えたという統計もあります。世界でも例のない急速な貧困と格差の拡大です。
近年、働いていても生活できない「ワーキングプア」(働く貧困層)が大きな社会問題となってきたように、貧困と格差の拡大はこれまでの「正社員」を中心とした雇用が「派遣」や「契約社員」といった非正規雇用に置き換えられ、賃金が大幅に引き下げられていることが大きな原因です。厚生労働省の調査では正社員以外の労働者の割合は38・7%、企業側の理由は「賃金の節約のため」が43・8%を占めるありさまです。
貧困と格差の拡大を解決するためには、「貧困層」の生活を支える生活保護など社会保障を充実させるとともに、非正規から正規への雇用の転換、最低賃金の大幅引き上げなどの課題を中心にすえて改善すること抜きには実現できません。文字通り人間らしい働き方を実現してこそ、多くの働く国民が「誇り」と「生きがい」を取り戻すことができます。
野田首相が「中間層の復活」をいいながら、雇用についてはせいぜい「働く意欲のある人が働くことができる」などとしかいわないのはまったく異様です。派遣労働者の雇用と権利を守る労働者派遣法の改正や有期契約労働の見直しは民主党政権の公約でもあったはずですが、野田首相になってからはまったく聞かれなくなりました。
野田首相のいう「社会保障改革」自体、「全世代対応型」への転換というだけで、「税・社会保障一体改革」の中ではいっそう改悪される危険が明白ですが、雇用問題にまったくふれないまま「中間層」を復活させるといっても、それは絵に描いた餅にさえなりません。
財界の要求に忠実だから
なぜ雇用問題にふれないのか。それは野田首相が財界の要求に忠実だからというほかありません。野田政権に「大きな期待を寄せている」という経団連の米倉弘昌会長は労働者派遣法の改正など「規制強化」は「事業環境をさらに悪化させ(る)」と反対しています(共同通信講演会で)。野田首相の態度はこうした要求に忠実なだけです。
財界直結政治の弊害は明らかです。国民の暮らしを守るにはこの異常をただすしかありません。