2011年9月26日(月)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
秋の夜にすだく虫の音。リーンリーンと鈴虫、コオロギはリィリィリィ、ルルルルルと鳴いているのはカンタン。耳を澄ませば、遠い日の里山の面影がよみがえります▼虫の声をこよなく愛した作家として知られるのが、ギリシャ生まれのアイルランド人、小泉八雲ことラフカディオ・ハーン(1850〜1904)。「耳なし芳一のはなし」「雪おんな」など日本の民話を素材にした作品で有名ですが、きょう9月26日は八雲忌、八雲の命日です▼その年の秋も東京の自宅で松虫を飼っていた八雲は、よい声で鳴き通して喜ばせてくれた虫がもうすぐ死ぬのを哀れんで、暖かい日に草むらに放してやろう、と妻の節子と約束し、その数日後に狭心症で亡くなったといいます▼八雲は「虫の演奏家」の中で、虫の声をめでる日本人の感性を繊細で優美だと感嘆し、虫と心を通わせる日本人の暮らしの豊かさをたたえ、万葉の昔から虫の命のはかなさが文学の題材であることに深い共感を寄せています。そして〈先の見えない猪(ちょ)突(とつ)猛進的な産業化が日本の人々の楽園を駄目にしてしまったとき〉のありさまを懸念します▼この八雲の言葉は、今の日本を言い当てているかのようです。今回の台風災害を見ても、無理な産業化が日本列島を荒らし、過度な都市化が自然を壊した結果、被害は深刻さを増し、人々の安全な生活を蹂(じゅう)躙(りん)しているのではないか▼川や草地、雑木林、田畑を守り、虫の命を見つめてきた日本人の感性をもう一度取り戻したいものです。