2011年9月25日(日)「しんぶん赤旗」
野田首相の初外交
民意と世界の流れに逆行
国連総会出席のため24日まで訪米した野田佳彦首相。国連総会、原子力安全ハイレベル(首脳級)会合への出席とともに日米首脳会談など2国間会談をこなしました。初の外交で国際社会に訴えた内外の政策は―。
原子力・エネルギー政策
「福島」後にも原発推進
22日に国連本部で開かれた原子力安全ハイレベル会合開会式で野田首相は、「原子力発電の安全性を世界最高水準に高める」と述べました。旧ソ連・チェルノブイリ原発事故に並ぶレベル7の過酷事故を福島原発で起こしてわずか半年、事故収束の見通しさえ立たないなかで、世界に向かって原発推進継続を表明したのです。国際的には、ドイツやイタリアなどから広がった脱原発の流れを抑える先頭に立ったことを意味します。
翌23日の国連総会演説でも「原子力安全の水準を高めるための国際社会のさまざまな取り組みに貢献する」と言明しました。
首相は同演説で、再生可能エネルギー、省エネルギー、化石燃料のグリーン化など、中長期的なエネルギー政策について来年夏をめどに新戦略を発表することを表明しました。そこには原子力という言葉はありませんでしたが、首相は米経済紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」とのインタビュー(21日付)で、停止中原発についても来年夏までに再稼働することを明らかにしており、新戦略に原発を位置づけようとしているのは間違いありません。
PKOへの自衛隊派遣
「武器使用拡大」も示唆
野田首相は21日の潘基文国連事務総長との会談や23日の総会演説で、独立して間もなく武力衝突が今も絶えない南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)への自衛隊派遣について、「日本の得意分野でぜひとも参加したい」と司令部要員の派遣を表明するとともに、施設部隊についても「派遣に関心を有しており、必要な現地調査を早急に行う」と約束しました。首相演説の十数時間後には、日本から、外務省、防衛省、自衛隊からなる調査団が現地に向かい、憲法違反の危険な海外派兵がいっそう拡大されようとしています。
しかも首相は演説で、「紛争が再発しがちな脆弱(ぜいじゃく)な国々」でのPKOへの「積極的な参加」を打ち出し、「そのための環境整備をさらに進める必要がある」と表明しました。海外での武力行使につながる自衛隊の武器使用権限拡大などを進める可能性を示唆するものです。
沖縄・米軍普天間基地問題
「民意否定」地元紙批判
訪米した野田首相が最初に行ったのは、オバマ米大統領との首脳会談でした。オバマ大統領は、米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の「移設」について、「結果を必要としている時期に近づいている」と述べ、同県名護市辺野古への新基地建設を迫り、野田首相は「日米合意」にのっとって「全力を尽くしていく」と答えました。
首相の発言が米側の意にかなうものであることは、オバマ大統領が会談後、「彼となら仕事ができる」と歓迎したことでも明らかです。
普天間基地の県内たらい回し反対という沖縄の総意を踏みにじり、米側の強い要請に唯々諾々と応じた野田首相。琉球新報23日付社説は強い口調で批判しました。「これほど中身の乏しい会談は、過去にあまり記憶がない」「民主主義の価値観を共有する日米両国による民意の否定は、国際社会に自らの恥をさらすに等しい。いい加減自覚してもいい頃だ」
TPP(環太平洋連携協定)
財界要求で「早期結論」
聖域なき関税の撤廃で、農林水産業のみならず食品安全や医療、労働などあらゆる分野が甚大な影響を受ける環太平洋連携協定(TPP)。野田首相は、オバマ大統領に「しっかり議論を積み重ね、できるだけ早い時期に結論を出したい」と伝え、大統領はこれを歓迎しました。
経団連の米倉弘昌会長が、11月に米ホノルルで開かれるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会合までの参加表明を迫る中、アジアで市場拡大をめざす米国に“公約”を表明した形です。