2011年9月22日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
正直いって、半信半疑でした。しかし、実物をみて「やっぱり、そうだったのか…」▼育鵬社の中学公民教科書が表紙にあしらう日本列島の図に沖縄が入っていない。知人から聞き、市販本で確かめました。人工衛星からとった写真でしょうか。遠く千島列島やサハリンまで望めますが、沖縄はどこに? 奄美諸島もみえません▼市販本は、ごていねいに同じ図を表紙のほかにも2枚載せています。教科書は説きます。「国家としての一体感を守り育てることは大切」と。一体感? 表紙のなんという皮肉▼沖縄の八重山地区で、一部の人たちがルールを変え育鵬社の教科書の採用を企てました。が、地区の教育委員の全員が話し合った末、不採択と決まりました。対して文科省が、育鵬社本の採用を事実上求めるような通知を出し、話をむし返そうとしています▼育鵬社本は、「国家に守られて生活する私」の意識をもてと教えます。しかし沖縄県民は、「国家」に生活を壊され命を奪われた体験を忘れません。沖縄戦のとき、石垣島など八重山の住民は日本軍にマラリアのはびこる山地へ追いやられ、3700人近くがマラリアで死にました▼戦後は「国家」に捨てられ、アメリカの占領下に。復帰しても、米軍基地に苦しめられる。育鵬社の教科書は、日米安保条約が「平和と安全」に「大きな役割を果たして」いると書きます。そこで説く「国家としての一体感を」。県民に、「国家」のために米軍基地を認めよ、と迫っているように読めます。