2011年9月19日(月)「しんぶん赤旗」
温泉街 風評に泣く
旅館・ホテル廃業相次ぐ
福島市土湯
福島市土湯(つちゆ)温泉町の旅館とホテル四つが9月に入って自己破産や事業を停止し、廃業しました。3月11日後、放射能の風評被害で客が激減したためです。阿武隈川水系の荒川の両岸に二十数軒が立ち並ぶ温泉街を訪ねました。(菅野尚夫)
JR福島駅東口から出発した土湯温泉行きのバスは乗客が数人。同温泉に着いた時には記者を含めて2人だけ。「バスでくる客は少ない。自家用車か観光バスツアーで立ち寄るかです」と、お土産店の店員が教えてくれました。
土湯温泉は、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の第2次避難所として利用されていましたが8月末で終了。9月から一般客だけになり、閑散としています。
バスを降りて川沿いに歩いて早乙女橋、月乃湯橋を過ぎると「いますや旅館」があり、玄関には自己破産を伝える張り紙がありました。荒川大橋を過ぎてさらに進むと「土湯温泉ホテル」です。ここにも自己破産の張り紙です。
いずれも9月7日付けで自己破産を申し立ててありました。
「8月末までいた被災者が、仮設住宅などに転居しました。ホテルや旅館は一気に客を失い、バタバタと倒産しました」と、観光関係者は言います。
福島市役所土湯温泉町支所の職員は「約1000人から1100人の被災者が避難していましたが、仮設に移りほぼゼロになりました。通常の客はバスツアーのルートになっていて毎日4台ぐらいは来ていたのが、原発事故後はルートからはずれました。打撃です」と話します。
土湯温泉は、日本でも有数のこけしの里です。鳴子(なるこ)、遠刈田(とおがった)と並び「日本三大こけし」のひとつに数えられています。こけしだけを販売する「土湯見聞録館」の販売員は「前年と比較すると客は2、3割しかいません。9月にはいって歩いている人がいなくなりました」と嘆きます。
震災で被害をだした「富士屋旅館」「天景園」も8月末で事業を停止しています。
湯遊つちゆ温泉協同組合の渡辺久理事長は「温泉を供給している組合です。旅館やホテルが減ると収入も減ります。地震後は廃業などで半減しました。観光一本では難しい状況におかれています。荒川の水を活用した小水力発電や温泉の地熱を利用した地熱発電など再生可能エネルギーで街づくり計画を復興計画のひとつとして検討を始めています」と、語っていました。
復興へ模索が始まっていました。
土湯温泉 福島市街地から西方16キロに位置し、東電福島第1原発から約70キロ離れています。9月12日に福島市役所土湯温泉町支所前で測った放射線量は毎時0.16マイクロシーベルトで市内でも最も低い数値です。150度前後の温泉が毎分約 1400リットル湧き、温泉街に供給されています。