2011年9月19日(月)「しんぶん赤旗」

きょうの潮流


 先月亡くなった明治維新研究で知られる歴史家の遠山茂樹さんは、眼鏡の奥から向けるまなざしが柔和でした▼喫茶店で取材した時のことです。いざ会計をしようとするとそれを制止してこう言いました。「ほかの新聞社ならごちそうになるが、赤旗記者に出してもらうわけにはいかない」▼情熱の人でもありました。講演を聞いた人が回想しています。「メモ一つ持たず静かに語り始め、佳境に入るや、次第にフォルティッシモになる。内容は失念したが、そのときの話しぶりと感動は忘れられない」(加藤祐三「新たな学問創造をめざして」=遠山茂樹著作集第9巻月報)▼この巻に収めた論考で、遠山さんは戦争体験の継承の難しさについて論じています。戦争の思い出をなつかしむ戦前派の「同窓会」のような伝承であってはならない。それでは若い世代は反発する。「体験への回帰が、仲間うちの閉ざされた世界を作ってしまっているのであれば、歴史は若い人々に伝えらるべくもないからである」と▼そうではなく、「各自の思想の基礎にある原体験、どうしてもこの問題だけは、自分の体験を歴史化しなければならないという問題を追求し、これを公にし、相互に交流と批判をかわしてゆくこと」だと説いています▼原体験はどんな問題でもいいとも書いています。今の若者には劣悪な非正規雇用もその一つ。「体験の歴史化」とはこの場合、原因を突きとめることです。そのとき戦争体験も彼らにより身近に響くでしょう。





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