2011年9月11日(日)「しんぶん赤旗」

鉢呂氏 放射能発言

辞任では済まない


 鉢呂吉雄経産相が10日、「放射能を付けたぞ」との発言(8日)の責任を問われて辞任に追い込まれました。発言は、閣僚としてだけでなく、社会人としての常識も疑わせるもので、辞任は当然です。しかし、野田政権には、鉢呂氏の辞任ではすまない重大な問題があります。

 福島原発事故では、いまだ10万人を超える人々が避難生活を余儀なくされ、農水産業などが受ける経済的損害は膨らみ続けています。政府による放射性物質の本格的除染は手つかずで、子どもをもつ親たちは将来の甲状腺がんなど晩発性の疾病の発症に日々おびえています。

 県外に避難した子どもたちが、学校などで“放射能がうつる”などの科学的知識の不足がもたらす心ない言葉によって傷つけられる例まで出ています。鉢呂氏の発言は、そのような被害者の苦しみに対する配慮を完全に欠いたものでした。

 鉢呂氏の発言には、原発事故の深刻さへの認識もなければ、原発削減政策への真剣味も感じられません。原発政策を担当し、福島原発事故収束の先頭に立つべき閣僚に、そのような人物を任命した野田佳彦首相の責任も厳しく問われます。

 なぜ担当閣僚から、こんな不真面目な発言が飛び出すのか。その背景として、政府・民主党の原発に対する態度も指摘せざるを得ません。

 鉢呂氏は、経産相就任後、各紙のインタビューで「再稼働がなければ、かなり厳しい」などと、停止中の原発の再稼働の必要を繰り返し主張してきました。

 その立場から鉢呂氏は、電力会社まかせのストレステスト(耐性試験)の有効性に対する疑念を払拭するために、国際原子力機関(IAEA)に評価を求める考えを示し、すでに野田首相からも了解を得ていることを明らかにしています。

 しかし、IAEAは、天野之弥事務局長が福島原発事故後も「原発が安定したクリーンなエネルギーだという事実は変わらない」と語っているように、原発推進の立場に立つ機関です。鉢呂氏は、国際機関の“お墨つき”を得て危険な原発の再稼働推進を正当化する姿勢をとっているにすぎません。

 原発の新規建設を断念したはずの野田政権ですが、その立場も揺らぎ始めています。藤村修官房長官は6日の記者会見で、「新規建設」とは「いまから土地を手当てし、新たに建設するという意味だ」と発言。立地や着工が進んでいる新規原発の稼働はありえるとの立場を示しました。

 本気で原発をなくしていくという姿勢もなく、財界の要求のままに原発再稼働を推進する野田政権全体の姿勢のなかで、事態の深刻さへの認識を欠いた鉢呂氏の不真面目な発言が飛び出したといわなければなりません。 (林信誠)





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