2011年9月11日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
スティーブ・ライヒは、現実とのかかわりを重んじる、アメリカの作曲家です。ニクソン大統領や原爆を開発したオッペンハイマー博士が主人公の歌劇で知られる、ジョン・アダムズと並ぶ社会派とみなされます▼ライヒの新作が、物議をかもしました。「WTC9/11」。9・11テロで崩壊した、世界貿易センターの悲劇を描いています。わが国では、まだ発売されていません▼議論を巻き起こしたのは、CDの表紙です。炎上する高層ビル。上空をおおう黒い煙。ビルに突っ込む寸前の二番手の飛行機。あの瞬間の写真です。「無神経」「悪趣味」と、非難が飛び交いました▼当日、愛する親や子、妻や夫の働くビルが崩れ落ちるさまをテレビで目の当たりにした人もいます。そして、かつてアメリカが味わったことのない屈辱。“これ以上傷つけるな”という人や、いまも現実を受け入れられない人がいて不思議ではありません▼表紙を認める人もいます。事件を忘れず、アメリカが自分自身と向き合うために。9・11から10年がたったいま、なおさらでしょう。アメリカは、戦争でテロをなくせず、アフガン戦争は米史上もっとも長い泥沼の戦と化しました▼アフガンとイラクの戦争の最大の犠牲者は、死者数十万ともみられる民間人です。大義を失い、「自由」の看板も色あせた10年。インターネット試聴した「WTC9/11」は、弦楽四重奏に音声を交え世界の行方を問うように終わります。アメリカという国と向き合う試みと聴きました。