2011年8月30日(火)「しんぶん赤旗」

日米共同演習 シナリオ判明

日本侵略と島しょ対応を想定


 陸上自衛隊と米陸軍が来年初めに予定している共同指揮所演習「ヤマサクラ61」(YS61)が、中国を想起させる国による日本侵略を想定したシナリオで行われることが29日までに分かりました。


 ヤマサクラ61は陸自中部方面総監部のある伊丹駐屯地(兵庫県伊丹市)で来年1月31日から2月5日まで実施されます。8月に入り、同演習の想定を記した「作戦命令001」などの150に及ぶ資料が米国防総省と外部の機関、個人との間で情報交換・共有を目的にした情報ネットワーク「APAN」で公表されました。詳細なシナリオが事前に公になるのは異例です。

 それによると、中国を想起させる「ハンナン人民共和国」が、日本からの米軍の撤退を要求し、「ハンナン」主導の東アジア連合に日本を強制的に参加させようと軍事行動を起こすというもの。「ハンナン」と、北朝鮮を想起させる「バルヘ」(渤海)の連合軍の5個師団が、西日本の分離・支配と大阪占領をめざし金沢市と鳥取県米子市に上陸を開始。侵攻阻止の防御戦闘を実施する陸自中部方面隊を、米太平洋陸軍(ハワイ)・第1軍団前方司令部(神奈川・キャンプ座間)指揮下の米軍地上部隊が支援し、“侵略軍”を打破する内容です。

 ここには、「ハンナン」が攻撃・占領した島根県隠岐の島町の港などを、陸自第1空てい団(中央即応集団所属)と、米陸軍空てい旅団戦闘団が共同で奪還する作戦も含まれています。

 昨年12月に菅政権が閣議決定した「防衛計画の大綱」で打ち出した、中国・北朝鮮の「脅威」を名目にした「島嶼(しょ)部に対する攻撃への対応」の日米共同作戦を具体化したものです。


 ヤマサクラ演習 米陸軍と陸上自衛隊のコンピューターネットワークとシミュレーションを使用した共同図上演習。1982年に始まり偶数回は米国内での参謀演習・計画策定会議、奇数回が日本での本演習です。陸自は5個の方面隊が毎年輪番で実施します。ヤマサクラ61(YS61)では、米軍は米太平洋陸軍(ハワイ)司令官のフランシス・ワーシンスキー中将が、陸自は中部方面総監の荒川龍一郎陸将がそれぞれ総責任者になります。


解説

「日本防衛」超えた演習

世界規模の米軍作戦を準備

 日米共同演習「ヤマサクラ61」(YS61)が事実上、中国の日本侵略を想定した内容で実施されることは、中国の「脅威」をあおり、軍事態勢強化を進める日米軍事当局の意図を表したものです。

 演習シナリオは、「朝鮮半島有事」の結果、半島南部のシッラ(新羅)から米軍が撤退。北部バルへ(渤海)を勢力圏に入れた半島北隣の大国「ハンナン人民共和国」が、一層の勢力拡大をめざし日本を侵略するという中身です。

 しかし、日本政府が「防衛計画の大綱」(2010年12月閣議決定)で「大規模着上陸侵攻等の我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性は低い」と述べている通り、非現実的なシナリオです。実際、北朝鮮をめぐる6カ国協議の再開をめざす動きも始まっています。

 ではなぜ「日本への侵略」というシナリオなのか。日本国憲法の下では、海外での日米共同の軍事行動を禁じており、日米共同演習も「日本の防衛」という枠組みを超えることができないためです。

 しかし、米軍は、同演習の目的をアジア・太平洋地域の即応態勢強化と位置付けています。

 YS61では、在韓米軍第8陸軍司令部が、初めて全作戦を指揮する統合任務部隊司令部となります。その指揮下に入るのは▽地上部隊司令部=演習の主力となる太平洋陸軍(ハワイ)・第1軍団前方司令部(キャンプ座間)▽航空部隊司令部=第13空軍司令部(ハワイ)▽海上部隊司令部=空母ジョージ・ワシントンや同レーガンが配備された第7艦隊(横須賀)です。

 第8陸軍は、部隊や兵員などの管理業務を太平洋陸軍に移管しました。10年8月から朝鮮半島以外の地域も含めた軍事作戦の指揮に特化した野戦陸軍への改編を開始。YS61もその一環とみられます。

 YS59(11年1月)に参加した陸軍第1軍団司令部(ワシントン州)は7月からアフガニスタンに統合部隊司令部として1年間派遣されています。YS61に参加するミネソタ州兵第34歩兵師団司令部も09年5月から8カ月間、イラクに展開していました。

 日米共同演習は、「日本防衛」の枠を大きく超えて、全世界で活動する米軍部隊の訓練の場となっています。 (佐藤つよし)

図

(写真) ヤマサクラ61演習の「敵の最も可能性の高い行動方針」を示した米軍作成の図。東京占領をめざす部隊OSC―2は新潟から、大阪占領を目指す部隊OSC―1は金沢と鳥取県米子市から上陸する想定になっています





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