2011年8月28日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
新たな扉を開けようとしている、南アフリカの短距離走者の話を一つ。オスカー・ピストリウス(24)というパラリンピアンです▼生まれつき、すねの腓(ひ)骨がなく、生後11カ月で両ひざから下を切断した義足のランナー。その彼が、27日開幕した世界陸上(韓国・大(テ)邱(グ))で、世界のトップ選手と肩を並べ、男子400メートルに出場を果たします▼その足にもかかわらず、子どものころからテニスや水泳、ラグビーに親しみ、陸上で才能が開花しました。「自分は障害者とは思ってない。足がないだけ」という、強い心の持ち主。パラリンピックで四つの金メダルも手にしました▼記録的にも五輪が見えてきた北京五輪前、「壁」が立ちはだかります。国際陸上競技連盟が、カーボン製で弾力構造となっている彼の義足を、「器具による運動能力の向上」にあたるとし、一般の大会の出場を認めない決定を下したのです▼それでも、あきらめませんでした。「もう一度、調べてほしい」。スポーツ仲裁裁判所に提訴し、「証拠不十分」との判断を勝ち取ったのです。「このことに全力を尽くすのは自分の責任」と、後に続くもののためにも、道なき道を切り開いた瞬間でした▼モットーは、「自分の障害のせいで不可能なのではなく、自分の能力で可能にできる」。どんな困難も飛躍のエネルギーに変えてしまう、たくましさ。みずからの足で、どんな高みに登っていくのか、夢が広がります。第一歩となるレースは今日、スタートです。