2011年8月26日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
街をさすらう、あるいは町や村を巡る芸人。彼らを描く映画には、いつまでも心に残る作品が多い▼老いた道化師と病で歩けない踊り子の愛と再生の物語、チャプリン「ライムライト」。荒々しい曲芸師と汚れを知らない妻を通して人間という存在の原像に迫る「道」。一座の旅にギリシャの現代史を重ねた「旅芸人の記録」…▼そんな歴史に連なる最新作が、登場しました。スペインの映画「ペーパーバード 幸せは翼にのって」(原題「紙の鳥たち」)。紙の鳥は、折り紙の鳥です。折り鶴そっくりですが、ちょっとした細工で、羽ばたきしながら飛びます▼内戦が終わった、1930年代のスペイン。フランコ独裁政権が、共和国派の残党狩りの目を光らせています。妻子を戦争で失い、劇団に帰ってきた喜劇役者。迎える相棒の腹話術師。2人と暮らすようになった戦争孤児の少年。彼は、紙の鳥をよく折っている▼軍に監視されながら、青シャツがシンボルのフランコ派を歌でこきおろす喜劇役者。「色はあせ着ても物笑いの種/…フランコとは暮らしていけない」。弾圧におびえつつ、抵抗心を失わない腹話術師。喜劇役者を師と仰ぐ少年。しかし巡業中の事件に巻き込まれ、3人の別れの時がくる▼最後。今は老いた少年が、舞台に現れます。みる者は知ります。今日のスペインは自由のためにたたかった人々の犠牲の上にある、と。「ライムライト」のチャプリンの台詞(せりふ)がよみがえりました。「人生に必要なのは、勇気と、想像力と…」