2011年8月24日(水)「しんぶん赤旗」
主張
原発の輸出促進
国主導の「詐欺商法」になる
日本国内で起きた重大な原発事故の収束も原因の究明も進んでいないのに、国が先頭に立って原発の輸出を促進する―。こんなとんでもない事態が進んでいます。
もともと、財界と一体で原発輸出を「成長戦略」の柱にしていた菅直人政権が、東京電力福島第1原発の事故後も原発輸出を進めるため、ヨルダンとの原子力協定の承認を通常国会の会期末で政権の退陣も間近いこの時期に強行しようというのです。これでは国主導の「詐欺商法」にならないのかと懸念されるのは当然です。
“トップセールス”で
電力会社や原発メーカーなど、文字通り「原発利益共同体」と一体になり、菅首相が先頭に立った“トップセールス”で海外への原発の売り込みを図ってきた菅内閣は、今度の国会でヨルダン、ロシア、韓国、ベトナムとの原子力協定の承認を求めてきました。このうちヨルダンとの原子力協定は、3月の東電福島原発の事故後、参院では民主・自民・公明などの賛成で承認を強行したものの、衆院では「自国の原発の安全性が問われているとき強行すれば、国際的な信頼を失うことになる」という日本共産党などの批判で、承認できないままになっていました。
東電福島原発の事故は、大気中や海中への放射性物質の拡散で、日本国内はもちろん海外へも重大な影響を及ぼしている事故です。事故は、いったん原発が大事故を起こせばコントロールできず、空間的にも時間的にも社会的にも大きな被害を及ぼすことを浮き彫りにしました。その大事故の収束のめども事故原因の究明も尽くされていないのに海外に売り込もうなどということが、あってはならないのは当然です。
事故後、東電は原発輸出を中止しました。菅政権もヨルダンとの原子力協定の承認を遅らせ、首相もいったんは原発輸出の「見直し」を示唆しましたが、その後財界などの巻き返しで輸出を継続する態度を明らかにし、改めてヨルダンとの協定の承認を持ち出してきたのです。重大な事故を引き起こした責任を、まったくかえりみない態度というほかありません。
菅内閣は、自民党議員が提出した質問主意書に答えて、日本は「世界最高水準」の安全性を目指すが、各国における安全性の確保は「一義的には、当該各国が自国の責任の下で判断するもの」としています。「安全」だとふれ込んで売り込んで、輸出さえしてしまえばそれぞれの国の責任だといわんばかりの態度です。まさに「詐欺商法」まがいの言い分で、事故を懸念する世界の人々への開き直りといわれても弁解の余地はありません。
原発依存からの脱却こそ
だいたい、軽々に日本は「世界最高水準」の安全性をめざすということ自体、それこそ原発で事故は起こらないとしてきた、これまでの「安全神話」を繰り返すものです。いったい政府は、「世界最高水準」の原発なら事故は起こらないといいはるのか。これまでは危険を承知で国内に建設し、海外に売り込んできたと認めるのか。
東電福島原発の事故は、もともと技術的に未確立な原発の、本質的な危険性を浮き彫りにしたものです。民主党政権がその危険性を認めるなら、原発からの撤退を決断し、海外への売り込みそのものもやめるべきです。