2011年8月21日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「円高の今がチャンス! ご予約はお早めに」「円高! 緊急企画」。旅行会社の海外ツアー広告に熱が入ります▼ニューヨーク市場で一時、1ドル=75円台の過去最高値を記録した円相場。たしかに旅行会社への追い風でしょうが、わが国全体への影響を考えると、旅行会社も喜んでばかりではいられないはずです▼大企業が、円高は輸出に不利だから経費を削れと、賃金や下請け単価を引き下げたりすれば、経済は冷え込みます。おちおち旅行に行かれない人が、ふえるかもしれません。震災からの復興の足を引っ張らないか、心配でなりません▼かつては1ドル=360円でした。1971年8月15日、円高にすすむ転機が訪れます。「ダムは決壊した」。当時のボルカー米財務次官がこう表現する、ニクソン大統領の「新経済政策」です。アメリカがドルと金(きん)の交換を止めた、「ニクソン・ショック」です▼ボルカー氏は「決壊」の説明の中で、とくにベトナム戦争の負担が限界を超えていた、と振り返ります。戦費をひねりだすため国が借金を重ね、ドルを世界中にばらまく。そのドルを金に換えるよう求められても応えられないほど、アメリカの金が底をつく。ドルを金に縛って通貨を安定させるしくみは崩れました▼40年後。いぜん軍事大国のアメリカは、経済危機を和らげる対策のための借金にもあえぎ、赤字大国のドルの信用が地に落ちつつあります。漂流するドルが世界の中心通貨の役割を演じ続けられるのか。40年後の重い問いです。