2011年8月20日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
陸前高田の日本共産党員市長だった中里長門さんの悲報が伝えられ、思い出した話があります。中里さんのある決断です▼昨年2月、チリ大地震による津波が押し寄せてきました。陸前高田の養殖漁業は、岩手県内でもっともひどい被害を受けました。市は漁業者の支援の求めにどこまでこたえられるか。担当の水産課長さんは、気が気でなかったようです▼中里市長と課長さんの、相談の日がきます。中里さんは、すぐに応じました。「被害資材の撤去費用については100%出しましょう」。1円ももうからず負担になるだけの片づけなどには、行政も最大限、手厚く援助しなければ…。中里さんの考え方でした▼同席した戸羽太副市長(現市長)が、振り返ります。「課長さんはもう、ほんとうにうれしそうな顔をしました」「副市長を務めていたなかで、いちばん印象的な出来事」と(『議会と自治体』4月号)▼翌日、中里さんが漁協の組合長に伝えると、組合長さんは「思わず直立された」(同)といいます。業者は、生活だけでなく生産の手段を得なければ、暮らしを再建できません。ワカメやカキなどの養殖施設の復旧費用にも、市だけで半額出しました。大被害でも、廃業する人はいませんでした▼1年後、陸前高田は東日本大震災に襲われました。自分の土地も仮設住宅用に提供し、病をおして救援と復興にのぞもうとした中里さんの無念は、想像に余りあります。せめて志が全国の被災地で生きるよう、願わずにはいられません。