2011年8月19日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
3・11大震災から5カ月が過ぎ、あらためて「津波てんでんこ」について考えさせられます。てんでばらばらに逃げる、つまり「てんでんこ」▼政府が被災者から聞いた調べによれば、震災が起こってすぐに避難した人の割合は57%でした。42%の人は、避難が遅れました。なぜすぐに逃げなかったのか。「自宅に戻った」「家族を捜した」が、ともに2割を超えています▼「過去の地震でも津波が来なかった」と考えた人も、1割以上いました。ついに帰らなかった人の多くが、わが家のようすをみに帰ったり家族を捜しまわっていたりして波にのまれた、と察せられます▼自分だけ逃げる「津波てんでんこ」は、いかにも非情です。しかし、東大地震研究所の准教授、(都(つ)司(じ)嘉(よし)宣(のぶ)さんは「そうではありません」と説きます。日ごろ、親が子に対し「津波が起きた時は、お父さんやお母さんを捜さず自分の考えで逃げなさい」と教えておく。親も、子どもを信頼して自分だけで逃げようと考える▼結果、いざという時の一家の無事につながる、というのです(新日本出版社『震災復興の論点』から)。都司さんは、子どもたちの犠牲がごく少なかった岩手県釜石市の小・中学校の例に注目します▼「釜石の奇跡」。ほとんどの子が、地震の揺れが収まってすぐ避難し始めました。ゆとりさえ生まれ、避難をしぶる家族を説得したり体の不自由な同級生をおぶって逃げたりする子もいた、と報じられています。学校の教育で、「てんでんこ」が生きました。