2011年8月18日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
先の大戦が終わり、洋風の歌謡曲がはやりました。タンゴやブルース、ワルツです▼戦中に禁じられていたダンス音楽の調子に、人々は解放感を味わいました。1950年の「水色のワルツ」は、その流れをくむ曲です。“君に会ううれしさの心深くにひそめる水色のハンカチで、涙のあとを隠したい”といった歌でした▼作詞・藤浦洸、作曲・高木東六の、甘美な歌詞と旋律。歌ったのは、音楽教師から歌手として独り立ちしていた二葉あき子さんです。一昨日、96歳で亡くなったと報じられました▼戦後、鐘にちなむ歌もはやっています。ラジオドラマ「鐘の鳴る丘」の主題歌。「長崎の鐘」。「フランチェスカの鐘」。名前をあげた3曲いずれにも、戦争の悲劇が刻み込まれていました。「鐘の鳴る丘」に戦争孤児の身の上が、「長崎の鐘」には原爆の被爆が。「フランチェスカの鐘」の歌い手は、二葉さんでした▼二葉さんは1945年8月6日、久しぶりに広島市内の故郷に帰る、車中の人でした。汽車がトンネルを走っている時、原爆投下。直撃を免れました。二葉さんは、犠牲者への鎮魂歌として「フランチェスカの鐘」を歌い続けました。心も狂うほどの未練の言葉を伝えて、と訴える歌でした▼「別れても」も、二葉さんの代表曲です。48年ごろ、お葬式でも歌われました。“涙をじっとこらえ、思い出の歌をそっと歌いましょう”、「たとえ別れても別れても」と。別れは人の定めでも、誰が簡単に悲しみを断ち切れるでしょう。