2011年8月12日(金)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
夜中に鳴くセミの声に目が覚めます。カナカナカナと明け方や夕方に鳴くヒグラシの声ならともかく、声の主はアブラゼミやニイニイゼミです。ジジーとかチーとか、いつまでも鳴き続けます▼「正しい発音ができるようになるまでには数日かかる」とありました(『日本産セミ科図鑑』)。地中から出てきた幼虫は羽化してもすぐに鳴くことはできないと。やっと「正しく」鳴けるようになったなら、我慢しようかとも思います▼正調や方言もあるようです。雄が雌を誘うため、ツクツクボウシならツクツクボウシならではの周波数やリズムがあります。しかも、同じ種類でも、産地によって鳴き方が違うというのですから、セミの世界も複雑です▼同じ図鑑によると、日本列島にはセミが36種類(35種1亜種)いて、他の地域に比べてセミの多様性は高いのだとか。研究者の地道な研究で分類の研究など、次々と新しいことが明らかになっています▼なのに日本学術会議が先月発表した、昆虫科学の現状や課題などについての報告書では、多くの昆虫研究者が、研究基盤に危機感を持っているとありました。学位を取得しても大学や博物館、研究機関の研究職ポストが厳しく、今後10年以内に多くの大学で、昆虫分類学を主な研究テーマとする研究室が消失するというのです▼昆虫は未知の種類が莫(ばく)大です。熱帯雨林の伐採や開発などで多くの昆虫が発見されないまま絶滅してしまう生物群です。研究基盤のもろさによっても、失うものは大きい。