2011年8月11日(木)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
八ケ岳は、花の季節を迎えていました。もう10日あまり前のこと。遅ればせながら、花の便りです▼尾根への登り道。ハイマツの群れの中に、白い花が顔を出しています。ハクサンシャクナゲが咲き始めていました。恥じらうようにほんのり紅に染まる、絶妙の色合い。吹き渡る涼風に揺れる花。山の清潔感に心洗われる瞬間です▼下り道。谷のそばの1本の木に引き寄せられました。葉っぱの先の方、広さで葉の半分ほど紅色をおびています。やはり半分が白く、「半化粧」から転じたという半夏生の葉が思い浮かびました▼実は、ミヤママタタビでした。つる植物。木の枝という枝にからみつく。マタタビの実は、ネコの大好物です。しかし、ミヤママタタビはネコの喜ばない別種でした。葉陰に咲く花に虫を誘い込むため、あかく化粧するらしい。おかげで、夏の山をおとぎの国のように彩ってくれます▼道端に、薄黄色の花がうつむき加減に咲いていました。横文字で表すと、レモンイエロー。いったい、なんの花? いまも謎は解けません。近い花は、詩人・立原道造が愛したユウスゲでしょうか▼下山し、立原道造の詩集を開きました。彼はユウスゲを、みれば憂いを忘れるというヤブカンゾウに同じと考えたようです。いま憂いを忘れられる時世ではないけれど、忘れられない彼の詩があります。「夢みたものは ひとつの幸福/ねがったものは ひとつの愛/山なみのあちらにも しずかな村がある/明るい日曜日の 青い空がある」