2011年8月8日(月)「しんぶん赤旗」

主張

生活保護制度改悪

最後の“安全網”を切り裂くな


 「生存権」。憲法がかかげる根幹の人権を支える最後のセーフティーネット(安全網)、生活保護制度をずたずたに切り裂く重大な改悪を、政府がねらっています。

 今年5月からはじまった「生活保護制度に関する国と地方の協議」は、政府側から厚生労働大臣、同副大臣、同政務官、地方側から石川県知事、高知市長、大阪市長、広島県坂町長と限られたメンバーで急ピッチの議論をすすめ、8月中に結論を出すといいます。国民の生きる権利を左右する重大問題なのに、当事者は関与せず、議事録さえ公開しない密室の協議に批判が高まっています。

「有期制」で根幹崩す

 今回の協議には、その“下敷き”となった昨年10月の指定都市市長会の「提案」があります。これは、2008年のリーマン・ショック後に生活保護受給者が増加し「生活保護に要する負担の増加が財政全体を圧迫し、行政運営に支障をきたしている」と、もっぱら財政の都合で生活保護を切り捨てることをねらうものでした。

 とりわけ重大なのは、「働くことができる人は働く社会へ」という聞こえのいい言葉で、3年から5年ごとに保護廃止を検討する事実上の「有期制」の導入です。

 厚労省は、今年4月時点の生活保護受給世帯が146万2197世帯となり、受給人数は202万人余だという数字を発表しました。最も多いのは高齢者世帯の42・8%ですが、働ける現役世代を含む「その他世帯」が16・7%といちばん増え幅が大きく、「就労支援」で、受給の抑制をはかるべきだと盛んに宣伝しています。

 社会保障があまりに貧弱なこの日本で、失業時に雇用保険の受給ができるのは完全失業者の25%程度、「第2のセーフティーネット」とされる訓練・生活支援給付制度もほとんど機能していません。失業=貧困という社会の現実はあまりに過酷なものです。

 しかも、生活保護の受給には大きな壁があります。受給要件を満たしていて実際に支給を受けている人は、政府試算でも30%程度にすぎません。7月に政府が発表した相対的貧困率は16・0%で過去最悪、「貧困」と認められる人がこれだけ増えているのに、生活保護が貧困を解決するために十分機能していないのが日本の現実です。

 50歳代を超えれば再就職など困難な経済情勢、病気やさまざまなハンディキャップをもった人も少なくありません。医療費の自己負担導入で受給者を医療からさえ遠ざけ、さらに「就労支援」で「自立」しなかったら、最後のセーフティーネットからも排除するという生活保護制度改悪は、国民の権利として、必要な人が生活保護を利用できるという健全な社会のあり方に、まったく逆行します。

国の責任こそ果たせ

 東日本大震災被災者の苦難が続くなか、生活保護制度が担う役割はますます重くなっています。地方が国に要求している「生活保護制度に関する費用の全額国負担」は、この協議で唯一正当な要求であり、ただちに実現すべきです。

 「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条)の保障は、国に課された義務です。それを掘り崩す生活保護制度改悪のたくらみはただちにやめ、関係者を含めた公開の議論で、制度の前進を図るべきです。





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