2011年8月7日(日)「しんぶん赤旗」
「原子力安全庁」構想
政策転換ないまま組織いじり
菅直人首相は6日、広島市内の会見で、細野豪志原発事故担当相が前日発表した「原子力安全庁」設置構想について「大きな前進だ。しっかり議論し、そう時間をかけないで方向性を定めていってもらいたい」と述べました。しかし実態は、とても「大きな前進」などと呼べるものではありません。
同構想は、現在「規制機関」とされる原子力安全・保安院を経済産業省から分離し、同じく内閣府から分離する原子力安全委員会と統合し、環境省あるいは内閣府の外局とするものです。
重大なのは、原子力安全・保安院の実態を温存するものとなりかねないことです。新しい機関には「保安院の出身者が7〜8割を占める可能性がある」(「日経」6日付)との指摘もあります。
同院は、「規制機関」でありながら推進機関に属し、福島第1原発事故を防げなかったばかりか、事故収束にあたっても「なすすべなし」の姿をさらしています。さらに、国民には「強い使命感」「中立・公正性」をアピールしながら、国主催のシンポジウムで中部電力や四国電力に原発推進が目的の「やらせ質問」を指示する行動をとっていた事実まで明らかになっています。どう考えても解体するしかない組織を温存するなど論外です。
新組織を環境省や内閣府の外局とすることも見過ごせません。環境省は原発とは無縁のようにいう議論がありますが、この間、同省が温室効果ガス削減を“錦の御旗”にして原発推進の立場を取ってきたことは周知の事実です。内閣府についても、現在これに所属する原子力安全委員会が福島第1原発事故をめぐり無責任な態度に終始していることを見ただけで、およそ察しがつくというものです。
何より根本的な問題は、政府が今後のエネルギー政策について、何らまともな方針を示していないことです。新組織を環境省の外局とする方法はドイツを参考にしたとされますが、それならばなぜ、根本問題を参考にしないのでしょう。
確かにドイツでは環境省が原子力の規制機関となっています。しかし、同国政府はすでに、2022年までに原発をゼロにすることを確固とした大方針として決めています。
ところがこの問題で日本の政府・与党は、ドイツを見習わないどころか逆行しかねない状況となっています。菅首相は一時、「将来は原発がなくてもやっていける社会をめざす」と表明しながら、すぐさまこれは「個人的考え」だとし、今では「原発への依存度を下げる」というところまで後退しています。民主党の「成長戦略・経済対策プロジェクトチーム」が7月28日に発表したエネルギー戦略の中間とりまとめには、「安全性が確認された(停止中の)原子力発電所については、着実に再稼働を進める」とまで明記しているのです。
真の規制機関は、日本共産党が主張しているように、安全・保安院の解体、推進機関からの完全な独立、専門家・技術者の英知の結集によるものでなければなりません。そして、そのための議論が、「原発撤退」にむけた基本方針づくりと一体のものとして進んでこそ、初めて実を結ぶことは明らかです。 (小泉大介)
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