2011年8月4日(木)「しんぶん赤旗」

主張

米債務上限引き上げ

「赤字削減」への議論は貧しい


 米国で連邦債務の上限を引き上げる法律が期限ぎりぎりで成立しました。世界経済を混乱させると懸念された米国の債務不履行は、当面回避されました。しかし、ドルへの信認は回復せず、円は史上最高水準に張り付いたままであるなど、混乱は収束していません。

ドル基軸の40年

 米ニクソン政権が金とドルとの交換を停止し、世界に衝撃を与えた「ニクソン・ショック」から、今月で40年です。金の裏づけから解き放たれたドルは、安定を失った一方で、基軸通貨として世界に流通しました。

 米国はこの間、貿易赤字と財政赤字を垂れ流しながら、それを賄うために世界中にドルをばらまいてきました。2008年に起きた米国発の金融危機とそれを引き金にした世界恐慌は、ドルの特権的地位に頼る米国の成長が終わったことを告げました。

 ドルの為替相場は長期的に低落し、ドルを準備通貨とする国ぐにはもちろん、米国債などのドル資産を抱える国ぐには価値の低下に直面してきました。中国などの新興5カ国(BRICS)や南米諸国などから、基軸通貨体制の見直しを求める声が強まっているのは当然です。世界を揺さぶった米国政治の「危機」は、米国が基軸通貨国に求められる最低限度の節度を失っていることを、劇的に示したというしかありません。

 債務不履行が避けられたといっても、米国の財政赤字が解決したわけではなく、米国債は引き続き格付けの引き下げ圧力にさらされます。米国が債務不履行に陥る危険があることを世界に周知させたことは、ドル基軸通貨体制の歴史的な行き詰まりを示しています。ドル基軸に代わる新たな国際通貨体制の構築は、もはや猶予ならない現実の課題です。

 債務上限引き上げは、表向きオバマ政権と与野党が互いに妥協した形です。しかし、上限の再引き上げを大統領選後に先延ばしし再選への足がかりを得たのを除けば、「オバマの敗北」とする見方がもっぱらです。

 野党・共和党は債務不履行を“人質”にとって、歳出に大ナタを振るう「小さな政府」の実現をオバマ政権に迫りました。大統領は、医療などの社会保障の充実や富裕層減税の廃止など、主要な公約を棚上げしました。赤字削減の具体策は新設される超党派委員会で決めることになり、予定通りに削減できなければ、強制的に歳出カットする仕組みもつくられます。オバマ大統領は再選されても、がんじがらめです。

 中身も、社会保障費を長期に抑制し弱者を痛めつけた「小泉・竹中流」構造改革路線をほうふつとさせます。大多数の国民から購買力を奪って、成長はおぼつきません。ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授は共和党の主張を「西洋資本主義のイデオロギー危機」と酷評しています。

代案のありかは

 米債務の成り行きに懸念が深まるなか、南米諸国首脳はドルに依存しない地域経済の必要を共有しました。市場原理主義に立つ「新自由主義」と決別し、貧困克服を優先する潮流が、中南米で大きく広がっていることが自信になっています。米国の貧しい議論とは対照的に、その姿勢は重要な代案があることを示しています。





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