2011年7月31日(日)「しんぶん赤旗」

政府の「復興基本方針」

財界流で被災者の声を無視


 政府が決定した「東日本大震災からの復興の基本方針」(7月29日)は、水産業について「地元漁業者が主体の法人が漁協に劣後しない(=遅れない)で漁業権を取得できる特区制度を創設する」と明記しました。

 これは、宮城県の村井嘉浩知事が強硬に主張し、政府の復興構想会議の「提言」(6月25日)に書き込まれた表現をそのまま採用した形となりました。

 この問題は、政府方針が、被災者の生活となりわいの再建を復興の根本に置くのか、それとも財界流の“成長戦略”に軸足を置くのか、その試金石ともいうべきものです。

漁業権を“開放”

 「特区」構想は漁業権の企業への“開放”を可能にするものです。宮城をはじめ被災地の漁業者から激しい反発の声があがるなか、平野達男復興担当相も「地域の合意は不可欠」とのべ(8日)、21日発表の基本方針の「骨子」の段階では「地元のニーズを前提」として、漁業者との合意を重視する姿勢を示さざるを得ませんでした。

 それを今回の成文は覆し、被災した漁業者の声を公然と踏みにじる異常なものとなりました。何か“強力な力”が加わったとしか考えられない対応です。

 漁業者は民間資本が被災地の漁業に参入すること自体に「反対」ではありません。しかし、「漁協に劣後しない漁業権」とは、漁協の管理から独立した活動を認めよという主張です。漁協を中心に営々と管理されてきた沿岸漁業秩序を無視する主張に、地元漁業者が厳しく反対しているのです。

 “財界流”のやり方は、「活力ある日本の再生」のスローガンを掲げ、「外国の活力を取り込んだ被災地域の復興と日本経済の再生を図るため、引き続き自由貿易体制を推進」として、TPP(環太平洋連携協定)推進を示唆した文言にも表れています。

 例外なき関税ゼロを目指すTPPに対して、農業者から「言語道断」の声があがり、農畜産物への放射能汚染の拡大、政府の対応の遅れに悲痛な叫びがあがっている最中に、TPPに直結する「自由貿易」を強調するとはどういうことか。

 日本経団連が22日に発表した「アピール2011〜大震災を乗り越え、新生日本の創造に向けて〜」で、TPPの「早期参加」を正面から迫っていることは無視できません。

消費税増税に道

 復興に向けた財源確保の方法はどうか。基本方針は、「時限的な税制措置」という名の増税を宣言し、「基幹税などを多角的に検討する」として、消費税増税に道を開きました。一方で従来の政府方針であった法人税率の5%引き下げについては、「その実施を確保する」とし、大企業の負担は求めない立場を鮮明にしました。

 28日には経団連と日本商工会議所が経済産業省のヒアリングで法人税増税について「経済活力が大きく損なわれる」などとし、消費税増税を復興財源にあてるよう要望したとされています。

 復興のあり方でも財源でも、いま、被災者をはじめとした国民世論と運動の広がりが決定的に重要な局面となっています。 (中祖寅一)





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