2011年7月18日(月)「しんぶん赤旗」
主張
イラク駐留米軍
約束守り速やかに全面撤退を
イラクに侵攻し居座り続けた米軍の撤退期限が年末に迫るなか、米政府が来年以降も駐留を継続させる可能性を探っています。
オバマ米大統領は昨夏、米戦闘部隊の撤退を終えた際、「(イラクとの)協定に沿って、来年末には全米兵がイラクを離れる」と約束していました。しかし、米政府内からは早くから駐留継続の意向が表明され、イラクの制空権の確保や情報収集、イラク軍の後方支援などで、1万人程度の米軍が必要との見方が流れています。
駐留継続ねらう米国
今月就任したばかりのパネッタ米国防長官は早速イラクを訪問し、イラク政府が米軍の駐留継続を望むなら、速やかにそう表明するようにと要請しました。イラク国内の複雑な政治動向をふまえた言い回しながら、駐留継続を求めてイラクに圧力を加えたものです。イラクのマリキ政権は駐留継続を支持しながらも、正式な要請を出しておらず、このままいけば米軍は来月には撤退を開始しなければなりません。
米軍はイラク軍の訓練を名目に、いまも約4万6千人もの大軍を駐留させています。イラク駐留米兵の死者は2009年12月以降毎月1桁で推移していましたが、今年は4月、6月と2桁を記録し、治安が悪化しています。
米側の駐留継続の動きこそがテロを誘発していることは否定できません。パネッタ長官は、米軍は自衛のためには「どんなことでもやる権限をもっている」と主張します。イラクの主権を否定する占領軍意識というべき姿勢です。イラク国民が、米軍は出て行けとの声を強めているのは当然です。マリキ政権にとって、駐留延長を要請することは、政権基盤を揺さぶることになります。
駐留継続の理由として米国が強調するのがイランの「脅威」です。パネッタ長官は、イランがイラクの過激勢力に提供した武器がテロ攻撃に使われていると、イランを一方的に非難しました。
イランの「脅威」をあげて駐留継続を正当化するこの主張が、米国のイラク侵攻の“理論的支柱”となったネオコン(新保守主義者)の今日の主張と重なり合っていることは見逃せません。それは対イラク侵略戦争の重大な誤りから、オバマ政権もまた免れていないことを示唆しています。
一方、米国が巨額の軍事援助を続けたエジプトのムバラク政権が倒れ、米第5艦隊司令部を置くバーレーンで民主化運動が高まるなど、中東で米国の影響力が低下するなか、米側には、イラクへの駐留継続で中東全域への影響力を確保したいとの思惑もあります。ゲーツ前国防長官は退任を前にした講演で、「(駐留継続は)米国がこの地域から出て行くわけではないのだという力強いシグナルになる」と述べていました。
国連憲章を基礎に
ブッシュ前米政権が国際世論を踏みにじって強行したイラクへの侵略戦争は、国連憲章に反する違法なものでした。以来8年余、人的にも財政的にもばくだいな犠牲と代償を払ったイラク戦争の現実を通じて、米国の一国覇権主義は破綻しました。
米国はイラク戦争の誤りときっぱり手を切り、国連憲章に基づいてイラクの主権と独立を尊重し、米軍を全面撤退すべきです。
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