2011年7月17日(日)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
すべて片仮名でつづる相撲の技を、ほかに知りません。ウルフスペシャルは、名横綱だった千代の富士の決め技でした▼鋭い面構えと力強い動きから「ウルフ」(オオカミ)のあだ名がついた千代の富士。彼の上手投げは特別(スペシャル)でした。右四つ。左からの上手でたたきつけながら、右手で相手の首根っこを押さえつける。相手をふるえ上がらせました▼千代の富士が序ノ口から積み上げ残した通算勝ち星は、1045です。今場所5日目、大関の魁皇が記録をぬりかえ、1046勝目をあげました。前人未到の新記録。魁皇は、左四つからの豪快な上手投げを決め手としてきました▼記録を達成したときも、左四つ、右上手。そして寄り切りました。持ち前の怪力の衰えとともに、魁皇も思い通りの相撲がとれなくて悔しがる場面が少なくありません。しかし、自分が望む万全の型に持ち込めば、やっぱり強い▼強豪力士が得意の型に相手を引きずり込むと、観客が期待にわきます。“きたー。さあ、いよいよ勝負にでるぞ”。型にこだわって努力し続ける力士たちは、さまざまなところで心棒をつらぬいて生きる人の姿にも重なります▼政治家なども、型にはまってばかりでは進歩への意欲が感じられませんが、型をもたない人は無残です。先日もわが国首相は、総理の資格で会見して語った「脱原発依存」を、2日後に「私の考え方だ」と私見に変えました。まるで、土俵の内と外の区別もつかない人が力士をつとめているようで…。