2011年7月16日(土)「しんぶん赤旗」
原発ストレステスト計画提出
電力会社が“評価”実施
保安院
経済産業省原子力安全・保安院は15日、東京電力福島第1原発事故を受けて、欧州諸国で導入されているストレステスト(耐性試験)を参考に、地震や津波などの事象について、どこまで安全性に余裕があるかを検討する「総合的評価」の評価手法と実施計画を原子力安全委員会に提出しました。同委員会は同日中の承認を見送り、審理した上で保安院が電力会社などに指示します。
保安院が提出したのは、定期点検などで停止中の原発の再稼働の可否の判断にするという「1次評価」と、運転中および建設中のすべての原発を対象にした「2次評価」の評価項目と実施計画。評価項目は、想定を超える地震、想定を超える高さの津波、全交流電源喪失、取水ポンプが使えないなどの最終的な熱の逃がし場(最終ヒートシンク)の喪失の4事象。「1次評価」では、「設計上の想定を超える事象」について原発の施設がどれくらい耐えられるかの余裕度を調べます。「2次評価」は、「設計上の想定を大幅に超える事象の発生を仮定」し、どの程度まで炉心損傷に至らずに耐えることができるかを調べるといいます。
また実施方法は、電力会社がこれらの評価を行い、結果を保安院に提出。次に保安院が結果を評価するとともに、原子力安全委員会に対して保安院の評価について確認を求めるとなっており、福島第1原発事故で国民の批判を浴びた組織同士だけの実施体制にも問題があります。
2次評価の電力会社からの報告の時期は年度内をめどにしています。
解説
「再稼働ありき」の名ばかりテスト
原発のストレステスト(耐性試験)はもともと、東京電力福島第1原発事故を受けて欧州連合(EU)が始めたものです。経済産業省原子力安全・保安院は、実施計画の策定に当たって「ヨーロッパのストレステストを参考にする」と表明してきました。しかし、それは名ばかりで、中身が伴わないものであることがはっきりしました。
EUがストレステストの実施に当たって発表した文書では、「包括的で透明性のあるリスク評価(ストレステスト)」と述べています。また、その文書の中では「ピアレビュー(査読)」という言葉が繰り返し出てきます。
査読とは、研究者が作成した論文を、同じ分野の研究者が検証して学術誌などに掲載する価値があるか判断することです。この場合、EU内のある国の原子力規制機関がまとめた報告書を、7人のメンバーからなる「査読委員会」が検証します。
査読委員会には、当事国のメンバーは入りません。さらに、透明性を保障する点でも二重三重に配慮がなされているのが特徴で、査読の結果について、原子力とは直接関係ない立場の人や、非政府組織(NGO)のメンバーが加わった公開のセミナーを開くことなどがうたわれています。
ところが、保安院が作成した実施計画案は、「評価実施方法」について、事業者(電力会社)が評価を行って保安院に提出し、保安院がそれを評価し、原子力安全委員会の確認を求めるとしているだけです。こうしたやり方は、福島第1原発の事故で破綻が明らかになった従来の原発の安全審査のやり方となんら変わりません。
実施計画では、定期検査中で起動準備の整った原子炉だけを1次評価の対象とするなど、「再稼働、先にありき」の姿勢が明確です。
ストレステストをやるというなら、「政府が責任を持ち、『安全神話』にとらわれない専門家の英知と力を総結集して行うべき」(日本共産党の市田忠義書記局長)というように、推進機関から独立した規制機関のもとに実施すべきです。(間宮利夫)
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