2011年6月29日(水)「しんぶん赤旗」
原発災害を考える 歴史的検証と未来への提言
BS11番組 不破社研所長語る
日本共産党の不破哲三社会科学研究所所長は、26日放映のBS11の番組「本格闘論FACE(フェイス)」に出演し、「原発災害を考える―歴史的検証と未来への提言」をテーマに、二木啓孝解説委員のインタビューに答えました。その内容を紹介します。
福島の原発事故をどうみるか――事態の全貌が分からないままでの対応
「原子力の『安全神話』は完全に崩壊したように見えます。そして、日本のエネルギー政策、原子力行政そのものが、実は根底から問われているのではないか」。番組冒頭、こう問題提起した二木氏は、原発災害問題で不破氏の講義を収録したパンフレット『「科学の目」で原発災害を考える』をクローズアップ。「原発そもそもの仕組み・問題点から、(不破氏が)国会で歴代の総理に原発行政のあり方について厳しく追及されてきたものがまとめられたもので、なかなか話題の本」(二木氏)と紹介し、不破氏に福島原発事故の現状認識をたずねました。
これに対し不破氏が力説したのは、「安全神話」を建前に原発を推進してきた政府、電力業界が一体何が起こっているのかわかっていない、という問題です。一番知っているはずのメーカー側も原発をつくる技術は知っているものの、事故を収束させる技術は知らない状態です。原発災害発生から3カ月と2週間がたつなか不破氏は「相手は放射能の塊。それをいかにくい止め、日本の国民、国土の安全、健康、生命、世界の環境を守るかというのがいまのせめぎあいなんです。(原発災害が)起きたときの非常事態はいまでも続いています」として次のように述べました。
不破 原子炉がどこまで壊れたか、なかでもメルトダウン(炉心溶融)が起きたのかどうかが一番問題になるのですが、政府も電力会社もずっと「起きていません」といい続けてきました。(東京電力は)4月17日に工程表をつくりましたが、あの工程表は、(原子炉は)部分的には壊れているけれども、基本は大丈夫、メルトダウンは起きていませんというのを前提につくった工程表なんです。
ところが、私も驚いたんですが、それから2カ月近くたったときに日本政府がIAEA(国際原子力機関)に出した報告書のなかで、初めてメルトダウンが起きていたということを発表した。もう(そうなったら)実態はがらっと変わるわけですよ。
しかもこの報告書をみますと、メルトダウンだけではない。とけた燃料棒が一番頑丈な圧力容器の厚さ16センチの鋼鉄板をもとかして、大部分がここ(格納容器の底)にまで落ち込んでいるんじゃないかというのがいまの想定なんですね。ところが、ここにきたものがどんな状態にあるかということを皆目わからない。工程表はここ(圧力容器内)にちゃんとあることが前提です。(格納容器の底に)落ちているんだったらそれこそ大ごとで、いままでの工程表の段取りも目標もやり方も全部ご破算になるぐらいの話なんですよ。ところが工程表は全然変わらないという。
二木 工程表ではなく、「期待表」みたいなところがありますね。
続いて不破氏は、福島原発の水素爆発で、炉心にあった「死の灰」の1%の放射能が空中に出たとされるが、放射能を閉じ込めるには残りの99%が問題だと述べ、その角度から汚染水対策の現状に警告を発しました。
不破 完全に解決するには、(残りの)99%を解決しなければいけないんですが、それがいま水を経由して汚染水となって外に出始めている。汚染水といわれているのは、これは閉じ込めておかなければいけない放射能を、原子炉の中に閉じ込められないで、水が担い手になってどんどん外に出つつあるというのが現状なんですね。だから汚染水処理というと後始末をやっているみたいにみえますが、そうではなくて、ほんとにこの放射能が日本に広がる、世界に広がるのをくい止めるかどうかのまさに非常事態の瀬戸際にいるんですよ。
二木 放射能汚染水の処理というのは後始末ではなくて、ほんとにすごい事態が始まっている象徴だと。
不破 その汚染水なんですが、いま11万トンたまっているといわれているんですね。ところが、11万トンたまっているというので、10万トンぐらい入る大きな集中処理施設をつくりまして、そこで大部分移したはずなんですよ。しかし、移しても減らないんですね。ということは、外のどこかに大きなプールができてしまって、それが地下水とつながってもっと巨大な汚染水となっているのではないかと考えられるんです。これもわからない。(汚染水の全貌が)わからないまま処理体制に向かっている。だから、ほんとにこのままだと危機がどんどん拡大する危険があると思って心配しているんです。
不破質問(76〜99年)のなかに「いまの原発の現状が全部ある」(二木氏)
原発の「安全神話」にしがみついてきた歴代政権を相手に、不破氏は国会でどのような追及をし、提起してきたのか。番組では不破質問のポイントをフリップにまとめて提示。二木氏は、質問で取り上げた背景や当時の政権の対応を不破氏にたずね、一つひとつ検証していきました。
――1976年、三木武夫内閣。政府が原発を当時の400万キロワットから9年後には4900万キロワットにまで増やす計画を立てました。不破氏は、アメリカでは原発の審査・管理にあたる機関に1900人の技術スタッフがいるのに対し、日本は非常勤の審査官で形だけの審査体制になっていること、さらに使用済み核燃料に対して無防備である問題をただしました。これらを聞いて「いいかげんな体制だった」と二木氏。
――1980年、大平正芳内閣。前年79年3月に起きたアメリカの「スリーマイル原発事故」でアメリカは「安全神話」こそ最大の問題だと教訓を出しました。これを踏まえ不破氏は、政府に安全規制の体制強化や、原発事故が起きたときの地域住民の安全確保はどうなっているのかと追及。「安全神話」を振りまくから事故対策もない、と解説した不破氏に二木氏は「住民は情報がなければ対策の立てようがないということだったんですね」。
――1981年、鈴木善幸内閣。国が特別の地震立法までつくりながら、東海大地震の予想震源域になぜ浜岡原発の増設を認めるのか、という問題を追及しました。
――1999年、小渕恵三内閣。スリーマイル原発事故に続き、86年の旧ソ連でのチェルノブイリ原発事故を受け、94年に「原子力の安全に関する条約」が結ばれました。この条約では原発を進める「推進機関」と、その安全を審査して施設を認可する法的権限をもつ「規制機関」との分離が規定されました。ところが、日本は推進機関の通産省(現経済産業省)が法的権限をもち、政府の原子力安全委員会は政府の諮問機関程度の役割しかないという国際条約違反の審査体制になっていることを不破氏は国会の党首討論で追及したのです。
番組では、不破氏と小渕首相とによる当時の党首討論の模様を約5分間にわたって放映。「規制機関」と「推進機関」の区別がわからず立ち往生した小渕首相の様子を伝えた二木氏は、「ここを見る限り、小渕さんはまったく質問の趣旨がわかっていないような(感じです)」と感想を語りました。
歴代首相にぶつけた不破氏の国会質問全体を通じて二木氏は「質問の項目をあらためてみると、一個一個このときに対策をとっていれば、そんなにいまのような事態はないだろうなと。いまから考えれば全部的確な質問なんですが、なぜ政府は改善しなかったのか。これは共産党のいうことだからみたいなことはあったんですか」と質問しました。
不破 やっぱり「安全神話」なんですよ。安全だと思い込んで、(国民に)思い込ませて原子力増強路線をひた走りに走る。たとえば、(取り上げた問題は今回の原発事故で)全部おきているでしょ。使用済み核燃料も大問題ですよね。それから地域の住民の問題もまったく無策だった。まさに地震で直撃された。審査体制についても、メーカー側で設計にあたってきた人がいっているんです。「ほんとに審査体制をつくろうと思ったら、メーカー側に対して全部技術のことも状況がわかって、対等でやりあえる人が審査官になっていないとだめだ」と。いまの日本の官僚機構では、科学のわかる人は原子力関係では上の方に行かないんです。
二木 そうなんですか。
二木氏は不破質問のポイントを記したフリップをあらためて振り返って、「実はいまの日本の原発が抱えている現状が全部出ている」と指摘しました。
使用済み核燃料問題――10万年、100万年後の人類に脅威の先送りは許されない
テーマは、いまある原子炉と使用済み核燃料の処理問題に。二木氏は「心配なのは、原子炉の老朽化の問題と使用済み核燃料の問題ですね。再処理ができるといってもできていない。いや、そもそもできないんじゃないかということがあると思うんですが」と質問。不破氏は次のように答えました。
不破 どうしても原発は燃やせば「死の灰」が出る。これは、100万キロワット(の原発)だったら1年間に広島型原爆1000発分出るわけですね。
それをどう処理するかなんですが、アメリカは危ないから再処理はしないと決めちゃったんですよ。なぜ危ないかというと、再処理というのは「死の灰」の放射能を除去するわけではないんです。核燃料の中から燃料としてもういっぺん使える部分と放射能の部分を切り分けるだけなんですよ。使える部分はプルトニウムになる。これは全部核爆弾の原材となる。だからプルトニウムにしちゃってこれがテロリストに使われたら大変だということになるでしょ。だから、これは危ないからやめるというんですね。使用済み核燃料のままで置くと。
置いてどうするかというと、10年ぐらい冷やした上で地下に埋めるというんですね。ところが、アメリカの大きなところでもある砂漠の地帯を設定しているんですけれども、住民が反対する。いまだに決められないんですよ。だから置きっぱなしなんですね。
日本は再処理するといっている。そうすると、プルトニウムの問題がもう一方あると同時に、残った廃棄物に放射能が集中するわけですね。そのものすごい高濃度の放射性物質を、再処理工場でとかしてガラスで固めるというんですよ。ガラス固化体というんですが、それはどんなものになるかというと、人間が触れるほど近づいただけで20秒で放射能で死ぬというんです。
二木 すごい高濃度ですね。
不破 そういうものができるんですね。では、それをどう始末するかという、いまの始末の方法ですと、だいたい30年から50年貯蔵して寝かしておくと。いま青森県の六ケ所村ではそれが一千何百本寝ていますよ。その後、どう処理するかというと、300メートルの地下深く掘って埋めておくというんです。この放射能の半減期は、いろんな物質によって違うんですが、ものすごく強いものが入っていますから、だんだん減っていって、だいたい自然に生まれるウランがもつ放射能ぐらいまでに減るのには数千万年かかるというんですね。ごく軽い放射能が出るぐらいのところまでにいくのにも10万年、20万年かかるというんですよ。
フィンランドやスウェーデンがそれをいま地下に埋める仕事を始めているんですが、何が問題になっているかというと、10万年後の人間にいまの言葉が伝わるだろうかと。そうすると、300メートルの地下に埋めて10万年後、20万年後に新しい人類ができたりして、ちょうどわれわれが昔の言葉を解読できないように、ここに危ないものがあるということをどうやって説明したらいいかと、そこまで議論しているんですね。
二木 最近日本でも放映されていますが、「10万年後の安全」というのを私もみたんです。そら恐ろしくなった。
不破 10万年後、100万年後の人類に対して脅威を与えるものが一体いまの人間に扱う責任があるかどうかが問われるんですね。
ここから何を教訓としてくみとるか――原発撤退の決断と本当の安全優先の体制
最後に、今回の福島原発事故から何を教訓としてくみとるかについて問われ、不破氏は次のように答えました。
不破 私は、問題が三つあると思うんです。
一つは、核エネルギーという巨大な破壊力をもったエネルギーを人間は発見したが、これを使いこなす技術をまだもっていないということです。だから、私たちは「未完成の技術」だといっているわけです。未完成なのに戦争のために無理やり使わせてしまった状態があり、ここに根本があると。
もう一つは、しかも日本が地震列島だということです。いま地震の科学が進んでくると、昔はどこが危ないといっていたけれども、日本列島のどこにも地震や津波の脅威のないところはないというのが結論なんですね。これだけ集中的に原発を使うことの危険性は明瞭だと。
それから、「安全神話」で安全体制がまったくずぶずぶになっている点で、原発をやっている国の中で日本がずば抜けているということです。アメリカだってフランスだって、危ないことは承知でそれなりにやるんですね。日本ぐらいそれを手抜きでやっている国はない。
この三つを考えますと、いまこれだけの経験をした日本が、原発といったい共存できるかどうかということについて国民的な討論で答えを出すべきときだと。私たちは、それこそ原発から抜け出す日程を決めて、原発のない新しいエネルギー体制に切り替える決断を戦略的に進めるべきだと思っています。
それから、これを決断しても、安全体制というのは必要なんですよ。一つの原発をなくすのにも、原発から核燃料を抜かなければならないでしょ。抜いた後もそこには放射能がうんと残っている。それを取り除きながら廃炉にしなければいけない。この全過程がいまみたいな体制ではできないんですね。ほんとに安全優先の体制をつくって、その原発をなくしていく過程をきっちり管理する。
こういうことが、これだけの事態をひきおこした日本の、日本の国民の将来に対する責任であると同時に、世界に対する責任でもあると思います。
ヨーロッパの国々が、あれだけ福島の原発事故から教訓をくみとって決断をしているのに、そのひきおこした日本がまだ事故も解決できないでいるのに、(運転停止中の原発について)そろそろ再開歓迎というのはほんとに考えられない。
二木 ほんとにわれわれは「安全神話」から抜け出して、さあどうするのかという道は二つしかないと思うんですよ。前に行くか、後ろにさがるかということなんですが、そういう意味では大きな契機になるだろうし、不破さんのこういう質問も積み重ねの中で今回、いろんな議論の問題点につながっています。