2011年6月28日(火)「しんぶん赤旗」
原発事故賠償問題の争点
福島第1原発の事故発生から3カ月半―。事故の影響で避難した住民、生業(なりわい)を奪われた農林漁業者・商工業者の生活は、限界を超えています。東京電力に全面賠償の責任をどう果たさせるのかが、延長国会の焦点の一つとなっています。
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東電支援法案
税金投入青天井の危険
東京電力福島原発事故の賠償をめぐって、政府は「原子力損害賠償支援機構法案」を提出しています。同法案は、東電の賠償金支払いを支援するために新たな公的組織「原子力損害賠償支援機構」を設立。電力会社など事業者が積み立てる負担金や機構が調達する資金で東電に資本増強や融資を行い、被害者への賠償に必要な資金を援助します。政府は国債の交付など公的資金によって支援する仕組みになっています。
しかし、この枠組みには見逃せない問題があります。政府の資金注入が青天井になる危険性です。「援助には上限を設けず、必要があれば何度でも援助」(14日の閣議決定)としています。事故による賠償額は10兆円を超えるといわれており、際限のない税金投入になりかねません。
電力会社の負担金については「事業コストから支払いを行う」と明記されており、電気料金の値上げとなって庶民の家計に跳ね返ってくる可能性もあります。
日本共産党の吉井英勝議員は1日の衆院経済産業委員会で、この枠組みについて「東京電力を救済するスキームになっている」と指摘しました。損害賠償以外にも事故処理費などの経費が膨大になることが予想されることや、電気料金がすべての費用を転嫁できる「総括原価」方式で決められていることをあげ、「事故処理費も国民が負担することになる」と批判しました。
仮払い問題
指針たてに支払い拒否
賠償問題では、全面賠償を東電に行わせるとともに、仮払いを直ちに行わせる必要があります。
21日現在の調べでは、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県の農漁業関係団体がこれまでにまとめた損害賠償請求額は約172億円。ところが、仮払いされたのは約11億円にすぎません。
背景には、東電が原子力損害賠償紛争審査会の「指針」に基づいて賠償を行うとして、指針に明示されていないものは仮払いさえしていないという問題があります。東電は、漁師の操業自粛で収入が無くなることが明白な仲買人など関連業者への賠償も支払いを拒んでいるのが実態です。
20日の参院復興特別委員会で、日本共産党の山下芳生議員は「事故との因果関係がはっきりしている被害まで、指針に入っていないからとの理由で仮払いしないという姿勢は許されない」と厳しく指摘しました。
もともと、紛争審査会は「賠償に関して紛争が生じた場合」に「和解の仲介」を行うものです(原子力損害賠償法第18条)。紛争になる前から同審査会の指針を持ち出して支払い拒否するのは間違いです。
山下氏は、被災者が根拠を示して賠償を請求しているものを支払わせるのは当然だと指摘。枝野幸男官房長官も「指針はまさに一つの指針であり、指針とは別に(東電が)明確に支払うべき損害であると認められるものは積極的に支払うのが当然」と答えています。
日本共産党は、原発事故がなかったらあったであろう収入と現実の収入との差をすべて賠償するという全面賠償の原則を明確にして、東電に賠償責任を果たさせるよう求めています。
速やかな仮払いについては、山下氏が14日の同委員会で「国による立て替え払いも含めて大至急の仮払いを」と提起。菅直人首相は「2次補正等を含めて対応したい」と述べており、約束を守らせる必要があります。