2011年6月26日(日)「しんぶん赤旗」

復興構想会議提言

被災者の願い押さえ込む過ち繰り返すな


 「たたかいなしに希望はやってこない」――政府の東日本大震災復興構想会議が25日に提出した「復興への提言〜悲惨のなかの希望〜」は、このような根本問題を投げかけるものとなりました。


漁民の反発無視して「水産特区」盛り込む

 同会議は菅直人首相の肝いりで4月に設置されたもので、首相は初会合で「創造的復興」の理念を掲げました。今回の「提言」は、同じ理念ですすめられた阪神・淡路大震災の「復興」が、大企業による開発を優先し、元の生活を取り戻したいという被災者の願いを上から押さえ込んだのと同じ過ちを、東日本で繰り返す危険を示しているといわざるを得ません。

 その象徴が、「水産復興特区」構想です。大震災は、東北沿岸部の第1次産業にとりわけ甚大な被害を与えました。それだけに、この分野でいかなる方向を示すかが、全体の復興をも占う焦点の課題となっているのです。

 「提言」は、民間企業参入のため、漁業権の規制緩和を行う「特区」の手法を活用することを明記しました。これは財界の主張を代弁する形で、宮城県の村井嘉浩知事が5月10日の構想会議で提起したもの。同会議の五百旗頭真議長は22日の会見で、「提言」に盛り込んだ理由について、「(漁業に)国際的にも競争力を持つ側面がないといけない」「そのために企業が参加することが重要だ。村井知事の提案は肯定的に受け止めた」と述べています。

 しかし、地元の宮城県漁協は、提起は一方的であり、漁業権を著しく軽視するものだと批判。「復興への意欲や希望を打ち砕かれるような気持ちを強く抱いている」とまで述べ、反対の署名活動に取り組んでいます。「特区」の明記は、当事者の願いを踏みにじるもであり、さらなる反発は避けられません。

「復興税」の名目で消費税増税に道

 財源では、構想会議初会合で五百旗頭議長が唐突に「国民全体で負担」する「震災復興税」の創設を提唱しました。これも、「国民に広く負担を求める復興税の導入」(経済同友会)など、財界の意向に沿ったものでした。今回、国民の厳しい批判を前に、「基幹税を中心に多角的な検討」を行うとの表現にとどめましたが、消費税増税の余地を残したことは明白です。

 さらに「提言」は、今後のエネルギー政策の項で、「製造業の海外移転による空洞化、海外企業の日本離れを防ぐため、電力の安定供給の確保に優先度の高い問題として取り組む」と財界の言い分を踏まえた上で、原発について、「新たな安全基準を国が具体的に策定すべきである」と、「安全神話」の“復活”まで提起しました。

原発からの撤退の方向も何ら示さず

 福島県復興ビジョン検討委員会は「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」などを柱とする復興基本理念の案をまとめています。これに対し「提言」は、再生可能エネルギーの導入促進などをうたうものの、原発そのものについては、減らすべきだとの言及さえありません。一方で「提言」は、「原発事故の被災地の中に『希望』を見出し…」などと楽観論を振りまいているのです。

 「東北の地に、来るべき時代をリードする経済社会の可能性を追求する」とした今回の「提言」。民主、自民、公明の3党合意で20日に成立した復興基本法の中身とも軌を一にしています。五百旗頭議長は同法成立について「提言についてもよりよい基盤ができる」と表明しています。

 同法は「21世紀半ばにおける日本のあるべき姿をめざし」などと財界・大企業の「成長戦略」重視の理念を掲げるとともに、国が復興の「基本的な方針」を定め、自治体はこれを踏まえ「措置を講ずる責務を有する」などと規定。日本共産党は、「被災者の生活基盤の再建こそ、復興の土台であるべきだ」「上からの復興押しつけは許されない」との立場から反対しました。

 政府は今後、「提言」を踏まえた復興基本方針を策定します。いまこそ、「被災者が主人公の復興」「原発からの撤退」を求める世論を全国津々浦々から総結集する時です。 (小泉大介)





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