2011年6月24日(金)「しんぶん赤旗」
主張
被災地の不当解雇
体力ある企業の「便乗」許せぬ
11万9776人。東日本大震災でとくに大きな被害を受けた岩手、宮城、福島3県の労働局がまとめた「失業者」の数です。失業手当を受けるための離職票・休業票を受けた人の数で、農家や漁師など個人事業者の失業者はこれに含まれておらず、被災によって日々の仕事を失った人の数はこんなものではありません。職業相談件数は40万近くにのぼっています。
苦難のなかでも、多くの中小企業が家族同然の労働者を守るために歯を食いしばりがんばっているのに、雇用を守る体力が十分ある大企業が震災に便乗し不当解雇を広げているのは重大です。
非正規労働者狙い撃ち
被災地では、店舗や工場などが地震と津波で破壊され、流失するなど、大きな被害を受けた事業所も少なくありません。だからといって、安易な解雇が広がれば、労働者が大変な苦しみにさらされるばかりでなく、復興を担う人々の暮らしそのものが根本から破壊されてしまいます。
本紙が5月末に行った被災3県のハローワーク調査では、大企業や派遣会社が、違法な解雇、雇い止めを行っている実態が次つぎ明らかになりました。「整理解雇の4要件」(人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、手続きの妥当性)を無視した解雇の乱用、新たな派遣先の紹介も賃金支払いもしない「派遣切り」、契約期間途中の有期雇用労働者の雇い止めが、まん延していたのです。
映画、遊技場などの複合施設を全国10県に展開している大手企業が、宮城県仙台市内の施設のアルバイト従業員を不当解雇した事案は、行政の不適切な対応もあって、とりわけ悪質です。
同社は、アルバイト従業員に、震災が発生した3月11日までの給料と1万円の「見舞金」を振り込んだだけで4月末に離職票を送りつけ、解雇しました。使用者都合で解雇するさいには1カ月前に予告するか、解雇予告手当を支払わなければなりません。ところが会社は、「天災事変」と労働基準監督署長が認めれば予告手当支払いを免除される「解雇予告除外認定」という制度を使ったのです。
宮城労働局管内ではこの「除外認定」の申請が数百件提出されています。同様の手法で、労働者の権利を踏みにじる事例が多数起こりかねません。震災便乗の安易な解雇というほかありません。
ソニーが同県多賀城市の仙台テクノロジーセンターで大規模なリストラ計画を打ち出したことも重大です。震災から40日以上たってから発表された大量の人員削減計画は「震災便乗」以外の何ものでもありません。いま4万人削減計画がとりざたされているパナソニックも福島、宮城などに関連工場を持っています。これを被災地に波及させるわけにはいきません。
社会的責任を果たせ
国会では、日本共産党の高橋ちづ子議員の質問に、細川律夫厚労相が「震災を理由に無条件で解雇というようなことはできない」と明確に答えています。政府は、大企業に社会的責任を求め、被災地の雇用を守るべきです。
まともな雇用を実現することこそ、被災地の復興、経済の再生になります。政府は、大企業の違法な解雇をやめさせるためのあらゆる手だてを尽くすべきです。
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