2011年6月20日(月)「しんぶん赤旗」
広域避難者 「借り上げ住宅」5県どまり
多数が制度受けられない恐れ
東日本大震災や福島第1原発事故の被災県から全国に広域避難している人に対して無償で提供される「借り上げ民間賃貸住宅」の制度の実施が、被災3県を除いてわずか5県にとどまっていることがわかりました。
本紙が13日から17日にかけて電話で都道府県に実施状況を聴き取りました。
同制度は都道府県が民間賃貸住宅の大家と契約し避難者に無償で提供するもの。実施している県は青森、秋田、山形、熊本、沖縄。補正予算を計上するなど具体化の準備段階にあるのは11県。「検討中」がもっとも多く、北海道は「実施しない」としています。
広域避難者は全都道府県にわたり、政府の被災者生活支援チームによると2日時点で、4万9379人。借り上げ民間賃貸住宅は災害救助法にもとづく応急仮設住宅として被災者に提供されます。このままでは、同じ被災者なのに避難先によって国の制度が受けられない人が多数生じる恐れがあります。
聴き取りのなかで都道府県の姿勢に大きな温度差がありました。実施が遅れている理由として、被災県から要請を受けて県同士で調整するのに手間取どる救助法の運用上の問題点も浮かび上がりました。
震災から100日以上たっても制度の実施が遅れていることに、埼玉県のある避難所では、「早く物件を探して次の住まいの確保にめどをつけたいのに困る」と焦りの声が聞かれました。
解説
広域避難者 借り上げ住宅の実施遅れ
運用の仕方に問題
応急仮設住宅として避難者に提供されるべき民間賃貸住宅借り上げ制度が、震災から100日以上たっても、被災地外でまだまだ機能していません。
経済的に厳しい避難者にとって、家賃や共益費など無償で2年間入居できる制度の実施が都道府県によってまちまちでは困ります。
制度実施に消極的な県の多くが「公的住宅を無償で用意しており、まだ空き室があるから」といいます。公的住宅の提供は評価できますが、同時に借り上げ民間賃貸住宅も必要です。
公的住宅のあっせんを断り、親戚・知人宅に身を寄せたり、自力で民間賃貸住宅で暮らす避難者もいます。すでに民間賃貸住宅に入居していても、借り上げ住宅の制度に契約を切り替えることができます。
借り上げ住宅への期待は大きく「公営住宅は見つけた職場から離れている。編入した子どもの学校から遠い」「親戚の近くの賃貸住宅に住みたい」という声も聞かれます。
実施が遅れている背景に、災害救助法にのっとった借り上げ制度の運用の仕方に問題があるとみられます。
一つは手続き問題。国が制度の実施を被災3県に通知して、それを受けて被災県が入居条件や家賃などの上限枠をつくり、各都道府県に要請します。都道府県もさらに具体化に向け被災3県と調整作業をします。3県は全都道府県と個別に実務作業をします。
一連の通知や要請は4月から5月にかけて出されました。「3県からの要請時期も、具体的要領もばらばらで対応が煩雑。それで実施準備が今日までかかった」という声が、受け入れ県の担当者から聞かれました。
二つめは費用問題。借り上げに要した費用は被災県に請求します。当面は受け入れ県が予算を使うことになり、避難者の多い県は補正予算を組み議会で承認を得る必要があります。
費用は最終的には国庫負担となるのですが、国がどこまで面倒をみるのか、不透明な部分があるといわれます。被災県も受け入れ県も持ち出しが予想され、制度実施に二の足を踏んでいるようです。
都道府県の判断で即座に弾力的に制度が運用できるよう改善することが求められます。費用についても国の責任をしっかり示すべきです。 (海老名広信)
借り上げ住宅の実施状況(17日時点)
(○=実施、×=未実施)
実施の 具体的な動向
有無
北海道 × 実施しない
青 森 ○
秋 田 ○
山 形 ○
茨 城 ×
栃 木 × 20日から実施
新 潟 × 6月議会に補正予算計上
群 馬 ×
千 葉 × 県内被災者のみ実施
埼 玉 × 6月議会に補正予算計上
東京都 ×
神奈川 × 6月議会に補正予算計上
山 梨 ×
長 野 × 6月議会に補正予算計上へ
静 岡 × 6月議会に補正予算計上
愛 知 ×
岐 阜 × 9月議会に補正予算計上か
三 重 ×
富 山 ×
石 川 ×
福 井 ×
京都府 ×
滋 賀 ×
奈 良 ×
和歌山 ×
大阪府 ×
兵 庫 × 6月議会に補正予算計上
岡 山 ×
広 島 ×
山 口 × 被災県と調整中
島 根 × 具体化準備中
鳥 取 ×
徳 島 ×
高 知 ×
香 川 ×
愛 媛 ×
福 岡 ×
大 分 ×
宮 崎 × 具体化準備中
鹿児島 ×
熊 本 ○
佐 賀 ×
長 崎 ×
沖 縄 ○
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