2011年6月19日(日)「しんぶん赤旗」

主張

ゲーツ長官の悲鳴

それでも前途は暗いNATO


 北大西洋条約機構(NATO)がリビアで軍事作戦を開始して3カ月になります。アフガニスタンへの派兵に加え、リビアでも新たな“役割”を見いだしたことで、NATOは勢いづいたかのように見えます。

 そのなかで、退任を目前にしたゲーツ米国防長官がNATOの抱える困難を率直に指摘した演説が衝撃を広げています。NATOはまさにリビアでの作戦を通じて、「能力の面でも意思の面でも欠陥を露呈した」と指摘し、「大西洋同盟の前途は、暗くはないとしても不鮮明だ」と述べました。

二つに割れる同盟国

 ゲーツ長官は10日、NATO本部で、加盟28カ国すべてが作戦に賛成したのに、参加国は半数にも満たず、攻撃参加の意思があるのは3分の1にも満たないと非難しました。「同盟国が責務を負う国と恩恵を受ける国に分かれている現状は受け入れられない」と強調しました。その主張は、欧州の軍事費削減が同盟をむしばみ、米国も肩代わりできないという悲鳴に近いものでした。

 軍事費を国内総生産(GDP)の2%以上にするとのNATO取り決めを実行している加盟国は、米英仏など5カ国だけです。しかし、欧州各国に軍事費を増やす余裕はありません。ギリシャ発のユーロ危機が深まるなかで、欧州統合を破綻させないためにも、各国は財政赤字のいっそうの削減を迫られているからです。

 軍事費比率の高い5カ国に、“国家破産”の崖っぷちに立ち、超緊縮政策で国民に犠牲を強いるギリシャが含まれているのは、軍事費がどれほど重しであるかを象徴しています。ギリシャはもとより財政赤字の削減が必要な国ぐににとって、ムダな軍事費の削減こそとるべき第一の選択肢です。

 リビアでの作戦が予想を超えて長引き、支出が拡大するなか、英国軍内には「現在の規模の作戦を夏以降も続けることはできない」「軍事的勝利はない」との見方が強まっていると伝えられます。

 問題はカネだけではありません。軍事同盟に新たな役割を与える試みは、紛争を平和的に解決しようとする世界的な流れに逆行しており、ますます失敗に終わらざるをえないものです。

 アフガンでは、NATO軍による空爆が市民に犠牲を広げており、カルザイ大統領が「このままではNATO軍は『占領軍』になってしまう」と厳しい言葉で警告しています。リビアでも、ドイツは攻撃に参加せず、カダフィ政権の崩壊後なら役割を果たすと慎重な姿勢を示しています。

 NATOに亀裂をもたらしているのは、軍事同盟のありかたそのものだというべきです。

困難と危険広げる

 軍事同盟は“時代遅れ”の存在です。世界の軍事同盟は、NATOと対抗したワルシャワ条約機構をはじめとして多くが20世紀中に活動を停止し、NATOは唯一残された多国間軍事同盟です。

 そのNATOが亀裂を抱え、同盟推進の立役者である米国防長官が危機を認めた事実は、その存在自体が加盟国の国民にも世界にも困難と危険を広げていることを反映しています。ゲーツ長官が欧州諸国をどれほど脅そうと、NATOの前途が「暗い」ことには変わりありません。





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