2011年6月12日(日)「しんぶん赤旗」
財界の復興プラン
上からの「日本改造」狙う
民主、自民、公明の3党合意による復興基本法案が衆院を通過(10日)し、政府の復興構想会議が6月末にも第1次提言を発表しようとするなか、財界が復興案づくりの前面に乗り出しています。財界プランは、「規制改革」「道州制」「復興税」などの大合唱。震災を奇貨に“日本大改造計画”を上から押し付けようとしています。震災復興をめぐり、“財界の意向”と“被災地の願い”とのせめぎ合いとなっています。(竹原東吾)
「構造改革」旗振り
「特区」設け企業便益
「復旧復興に全力を傾注しないといけないが、かといって長年の問題として放置されてきたものをこのままにしておけば、日本は衰退の一途をたどる」
就任間もない長谷川閑史・経済同友会代表幹事は6日、都内の記者会見で1時間半にわたって“熱弁”をふるい、「経済成長戦略」「税・社会保障の一体改革」など積年の財界要求の実現を求めました。
「大連立」に際して「2次補正予算は当然、成長戦略と税・社会保障の一体改革をセットでやってもらわないといけない」と民主、自民両党にクギを刺すのも忘れませんでした。
その経済同友会が8日に発表した、震災復興計画に関する「第1次提言」。東北全体を対象にした「特区」制度を活用し、民間の活力を最大限に発揮させる「構造改革の推進」を掲げました。
例示した農業復興特区では「企業参入の促進」、水産業復興特区でも「法人への漁業免許の付与、漁港の拠点化・大型化」など露骨な大企業主導政策が並びます。「復興財源」についても「国民に広く負担を求める復興税」など庶民増税を主張しています。
日本経団連が5月27日に示した「復興・創生マスタープラン」も、「震災復興特区」で「構造改革」を進める産業政策を提案している点で一致しています。
復興構想会議第3回会合(4月30日)では、財界3団体(経団連、経済同友会、日本商工会議所)を「関係者」として招き、聞き取りを行いました。
席上、経団連は「新成長戦略を加速させ、TPP(環太平洋連携協定)交渉参加への検討も」と“構造改革急ぐべし”の大号令。日本商工会議所は「復興税としての消費税引き上げはやむを得ない」とする資料を提出しました。
11日、明らかになった構想会議第1次提言の「たたき台」は、「復興特区」の創設や復興国債の償還財源として消費税を含む「基幹税」を中心に検討する方針が盛り込まれました。復興基本法案も「理念」として、「二十一世紀半ばにおける日本のあるべき姿を目指し」「国境を越えた社会経済活動の進展」など、財界流「成長戦略」の方向性を明記しています。
広域開発へ道州制
国民不在の大型整備
財界要求の行きつく先は、「究極の構造改革」(経団連)と位置づけられる「道州制」の導入です。
御手洗冨士夫・日本経団連名誉会長は「道州制の考え方を下敷きに、東北六県という大きな経済圏として復興のビジョンを考え、効率の良い形でインフラの復旧から手をつけるべき」(『財界』6月21日号)と要求。経済同友会も、復興の司令塔として「東北復興院」の設置を提言し、構想会議第3回会合で「将来の道州制も視野に入れ」と主張しました。
道州制の本質は、現在の県を越えた広域で財界向けの大型開発を行うことです。御手洗氏はかつて道州制の狙いについて、道州が確保した独自財源を空港や港湾、道路など産業インフラ整備に効率的に再配分することにある、とあけすけに語っています(『文芸春秋』2008年7月)。
「復興」でせめぎ合い
被災者の声今こそ
「いろいろおしかりを受けているが、ひるむことなく進めたい」
3日、都内で記者会見した村井嘉浩・宮城県知事は、自身が復興構想会議で提唱し、漁業者から猛反発を受けた「水産業復興特区」を強硬に推し進めていく“不退転の決意”を改めて表明しました。
復興構想会議委員として財界の“代弁者”役を果たしているのが、震災・復興を「大きなピンチですが、大きなチャンスでもある」(『財界』6月21日号)と公言する村井氏です。「私は道州制論者」「道州制が進めば、復興もかなり早く進む」(同)とも語ります。
一方、村井氏の記者会見前日、復興構想会議委員の達増拓也岩手県知事は同じ場所で会見し、「答えは現場にあるという言葉があるが、震災においてもその通りだ」と強調しました。
岩手県独自の復興基本計画案では、漁業再生は「漁協を核」に、農業再生も「地域特性」を生かすと明記。同案について県復興局担当者は「地域と相談しながら地域と密着した再生を図る視点だ」と強調します。
日本共産党は、東日本大震災にあたっての「第2次提言」(5月17日)で、復興では「被災者が再出発できる生活基盤を回復する」ことと、「住民合意を尊重し、『上からの押し付け』を許さない」ことの二つを原則にすることを提起しています。“被災者が主人公”の復興を実現できるかどうかは、国民の世論とたたかいにかかっています。