2011年6月11日(土)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
家々の庭のアジサイを眺めながら歩く。時間をくって、あわてて駅へ走る。もしアジサイが咲いていなかったら、日本の梅雨の雰囲気はもっと憂(ゆう)鬱(うつ)でしょう▼花の色が日々変わるアジサイは、呼び名もさまざまです。ずばり「梅雨の花」は、素性を物語ります。梅雨の国・日本が、アジサイの原産地ですから。「手まり花」「刺繍(ししゅう)花」「七変化」。形や姿、色の移ろいを表しています▼「オタクサ」は、女性の名前によります。お滝さんです。江戸時代の長崎に来ていたドイツ人学者シーボルトが、アジサイの学名をつくるとき、交際していたお滝さんにちなむ名を付しました。日陰の存在だった彼女をしのんでつけた、といいます▼「幽霊草」は、最近知りました。『花の名前』(文・高橋順子・写真・佐藤秀明)によると、鹿児島の種子島の言葉です。山口県では、「幽霊花」ともいうそうです。古人が、アジサイの色の変化にあやしさを感じてつけた名でしょうか。夕闇に白くぼうと浮かぶ花が幽霊みたい、との説もきかれます▼数々の呼び名を思い浮かべながらアジサイをみれば、味わいがより深まるかもしれません。しかしアジサイは、江戸時代には人気がなかったようです。色変わりが、心変わりや節操のなさに通じるとみて、きらう人が多かったらしい▼さて、いまは? 花の色の変化は好まれても、信念を欠いたり目先の利益を求めうろうろしたりの政治家など、やはり敬意を払われません。梅雨をいっそう憂鬱にさせる人たちです。