2011年6月6日(月)「しんぶん赤旗」
岩手・宮城・福島 被災3県ハローワーク調査
「仕事 地元で」職員奔走
雇用創出「地域主役の復興案を」
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「地元の求人獲得が一番の課題」「地元に人が残れる政策が急がれている」―。
岩手、宮城、福島3県の被災地のハローワークを取材して、当局者が共通して指摘していたのが、この課題です。
本紙が9カ所のハローワーク前でおこなった被災者の聞き取り調査(2日付既報)でも、被災者の多くが、老親の介護などさまざまな事情から、地元に残ることを強く希望しています。
複数のハローワーク所長が「外に出て行ける人は、すでに出ている。残っている人の多くは、出て行けない人たちだ」と語りました。地元の雇用創出は決定的に重要です。被災者の要求にこたえようと、どこのハローワークも少ない人数のなかから人を配置し、事業者訪問などで求人拡大にとりくんでいます。
しかし、多くの事業所が壊滅的な被害を受けたもとで、この仕事は困難を極めています。紹介できる仕事がないのです。
「地元の求人開拓で事業所をまわっても“状況がわかっているのか”といわれる」「人が雇える状態かどうか、見ればわかるだろうと追い返されることもあった」。担当者がこういって声を落としました。
いま被災地の求人情報は、多くが有期の非正規雇用で、最低賃金ぎりぎりの低賃金です。これで生活を再建できるのか、強い不安、不満が被災者から上がっています。しかし、いまのハローワークの体制ではこれが精いっぱい。最低賃金法による低すぎる最低賃金(岩手644円、宮城674円、福島657円)が大きな障害になっています。
さまざまな苦労のなかで、地元雇用を願う被災者の要求に応えるために、いま何が必要か。所長や担当者からこんな意見がだされました。
「雇用保険の給付が年末に切れる人が出てくる。保険はない。仕事もない。そんな正月にしないために、地元産業を急いで復興しなければならない」
「被災者が地元で働ける場を確保するには、水産業を主要産業にしている三陸沿岸の産業構造に見合った復興プランが求められる」
「地域の実情にそって、地元自治体の実情に合った復興プランを早くつくることが必要だ」
「上からの復興計画ではだめだ」と、菅政権のやり方に対する率直な批判もでました。
職員不足「すべきことできない」
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体制が弱く、やるべきことが十分にできない苦渋の思いも共通していました。あるハローワークの所長は、記者の質問が職員の体制に及ぶと、「それを一番最初に聞いてほしかった」といい、実情を身を乗りだして語りました。
「職員が足りないため、十分な対応ができない」「臨時職員を増員してはいるが、仕事を教える時間がない」など、どのハローワークでも職員不足は切実な問題です。
たとえばハローワークでは、所内で待機して相談者を待つのではなく、曜日ごとに自治体を決めて避難所をまわり、出張相談窓口を開設しています。しかし、「1年分に及ぶ雇用保険の給付処理だけで手いっぱい。臨時職員の増員だけでは専門的な業務に対応できない」といいます。
避難所の出張相談は当初、雇用保険の制度の説明など本来の仕事より、生活相談のような状況でした。家族を失った嘆き、避難所生活のつらさを誰かに聞いてほしくて声をかけてくる人が少なくなく、2時間、3時間にわたって話しを聞くこともあったといいます。
ハローワークでは、本来業務でないようにみえるこういう相談も、いまの被災者には大切なことだと受け止めています。しかし、もっと充実したいと思っても、それができないもどかしさがあることも訴えられました。
いま政府は、ハローワークを廃止、統合縮小する政策をとっています。最近の被災3県の状況をみると、岩手県で2008年度に千厩出張所、陸前高田出張所を廃止。宮城県では04年度に志津川分庁所、08年度に青葉出張所を廃止。福島県では08年度に石川出張所、浪江出張所を廃止しました。
職員の削減もおどろくばかりの人数です。2000年4月1日から11年4月1日まで10年間の推移をみると、ハローワークや労働基準監督署を含む各労働局の正規職員が岩手で26人、宮城22人、福島62人、合計110人も減らされました。
菅政権は、大震災直後、「被災者等就労支援・雇用創出推進会議」をたちあげ、就労支援・雇用の創出に向けた「ハローワーク・プロジェクト」として、被災者に対する出張相談の実施や特別相談窓口の充実、被災地での積極的な求人開拓などを打ち出しました。
しかしこれをすすめる職員の体制は、被災地外からの応援派遣だけ。これまでの縮小政策を反省し、体制を抜本的に強化することをしないままでは、対策が絵に描いた餅でしかありません。
政府がやろうとしているのは、体制強化どころか、震災復興の財源づくりを口実に、国家公務員賃金の1割削減です。「職員が増えず、仕事が激増している中で、賃下げでは現場の士気が下がる」「政府は何を考えているのか」と、批判が噴出しています。
すぐ応援「全国統一業務だから」
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ハローワークは国の機関として全国一律の業務をおこなっています。ある所長がつぎのように語ったのが印象的でした。
「いま全国のハローワークから職員が応援に入っている。これがなければ、とても対応できない。応援の職員はすぐに仕事にはいれるので、すごくありがたい。これは全国で統一した業務を行っているからできることだ」
政府や全国知事会はいま、「地域主権改革」として、ハローワークや労働局などの都道府県移管をねらっています。これらの業務が地方移管されれば、全国で統一した雇用保険業務が崩壊し、今回のような機敏な行政支援がうまくできなくなります。また今回、被災者が全国的に避難したように、就職や離職、保険受給など、一つの県内で完結するとは限りません。これが地方移管されて各県ごとに異なった運用になれば、混乱は必至です。
先の所長は語ります。「求人は他県からも寄せられ紹介できる。職業紹介も、雇用保険も全国的組織でなければできない。ハローワークは一つ。地方移管されれば対応できない」
「原発事故が収束しないと…」
福島
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原発事故の影響が県内全域に広がる福島県は、被災地でも岩手県、宮城県とは様相が異なっています。
「原発問題が収束しないと何も始まらない」と労働局の幹部が語ります。
風評被害が、農業だけでなく、観光業など全業種に出ているといいます。休業補償を助成する雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金の申請が1700件を超えています。福島労働局は、これに対応するために臨時の事務センターを立ち上げ、ハローワークでの事務を引き受け、一括して処理するなど対応しています。
また、震災の特例措置により雇用保険の給付日数が合計120日間延長されたことについて、「延長自体はいいが、事故収束のめどがたたないのに、果たして、この延長期間ですむのか」と危惧しています。
労働者・事業主が、県の内外を問わず3次、4次避難するもとで、雇用の維持・創出の見通しすら立っていません。ある担当者は、「復旧・復興のスタートラインに立つ前に、足踏みしている状態だ」と語ります。
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