2011年6月5日(日)「しんぶん赤旗」
検証 不信任案騒動
被災者の思いに寄り添った党は
「被災者を置き去りにしたこの時期の政争」(河北新報3日付)「被災地そっちのけで旧態依然の権力争いをつづけた」(岩手日報同日付)。被災地の地元紙が厳しく批判した菅内閣不信任決議案(2日、衆院本会議で否決)をめぐる動きは、各政党の立場をするどく問うものでした。今回の「政争」劇を検証しました。
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党内からも「大義がない」
“造反”頼みの無責任
自公
「非常事態に何をやっているのか」「現場にきて、私たちの声を聞いてほしい」
自公両党が提出した菅内閣不信任案をめぐる騒動に被災地では怒りの声がうずまきました。
提出した自民党内からさえ、「大義を欠いていた」「無理があった」の声が相次いでいます。
自民党の岩屋毅衆院議員は自身のブログで、「自公両党とも大義を欠いていた。…すべての政治家が口を開けば『被災地』を語り『復興』を唱えてはいるが、どこまで本当に被災地のみなさんに心を寄せることができているのか」と書きました。
石破茂政審会長も、「『菅を倒すという目的さえ一致していればそれでいいのだ』という理由だけで共に行動しようとしたことにやはり無理があった」(2日、自身のブログで)と“反省”の弁を述べています。
1日の党首討論。自民党の谷垣禎一総裁は、菅直人首相に対して「あなたのもとで復旧・復興をやっていくのは不可能だ」「あなたが辞めれば党派を超えて新しい体制をつくる工夫はいくらでもある」と大見えをきりました。
しかし、菅政権に代わってどのような政権をつくるのか、新政権が「震災・復興」対応でまともな対応ができるのか―この肝心な問題ではなんの答えも持ち合わせてはいませんでした。
それがあらわになったのが党首討論後の野党党首会談。日本共産党の志位和夫委員長から「“いま菅内閣を退陣に追い込めば、震災復興・原発対応がしっかりできるようになる”というけれど、いったいその保障はどこにあるのか」とただされた谷垣氏は、「(福島第1原発)事故の徹底検証が必要だ」というばかり。「安全神話」にしがみつき、原発への警告を無視してなんの対策もとってこなかったことへの反省は皆無でした。
志位氏から「反省なしに『政権を代えればまとな原発対応がとれる』といっても説得力をもたない」と批判されても、返す言葉はなし。「国民の不安を払拭(ふっしょく)し、国家を挙げて被災地の復興と被災者の生活再建を実現していくため」という不信任決議案の提出理由は空疎に響きました。
結局、不信任案の提出は、復旧・復興のためではなく、民主党内の小沢一郎元代表らの「造反」に期待しただけの党略的で無責任な動きでした。自民党の石破氏は「小沢チルドレンが決起するという誤った情報に踊らされて高揚したのは間抜けなことだ」と語ったといわれます。(「朝日」3日付)
では、不信任案否決後はどうか―。3日の参院予算委員会の集中審議で自民党から反省の態度は微塵(みじん)もみられませんでした。「ひきょうで姑息(こそく)なペテン」(山本一太議員)、「もはや政権担当能力はない」(西田昌司議員)など、再度「菅降ろし」の合唱に終始。被災者の声はおろか、震災対策に関しての政策論争さえ置き去りにしたのでした。
「ペテン師」の言葉まで
首相“続投”で党内政局
民主
「菅首相辞任時期をめぐる混乱は、与党内の緊張を高めている。政府内の亀裂を深め、国会論戦を麻(ま)痺(ひ)させる危険をともないながら」(米紙ウォールストリート・ジャーナル3日付電子版)
海外メディアもこう書くように、今回の不信任案騒動は否決した政府・与党内にも深刻な事態をもたらしています。
事態の根っこには、自民、公明両党の党略的な不信任案提出の動きに、小沢一郎民主党元代表らが呼応し、菅首相を引きずり降ろす「党内政局」的な動きが広がったことがあります。不信任案採決の前夜、小沢氏らは不信任案「賛成」を公言。70人以上の同党議員らを会合に集め、「不信任案可決の可能性も出てきた」(マスメディア関係者)という状況になりました。
こうした小沢氏らの行動について、共同通信の世論調査(2、3日実施)では「評価しない」が89・4%と圧倒的な国民の批判。小沢氏の地元岩手県の陸前高田市の避難所では「まず、陸前高田の状況を見てほしい」の声があがりました。
一方、菅首相はどうか。採決直前の民主党代議士会で「大震災に取り組むことが一定のめどがついた段階で、若い世代のみなさんにいろいろな責任を引き継いでいただきたいと考えている」と自主的な「辞任」を示唆したことで、党内の「造反」がしぼみ、不信任案否決につながりました。
ところが――。
不信任決議案否決後の2日夜の会見で菅首相は、「一定のめど」について「(福島第1原発事故対策の工程表で)ステップ2の冷温停止、放射性物質がほぼ出なくなることについて一刻も早い実現を目指すのが私の責任だ」「大統領や知事の任期程度、4年程度はひとつの総理、リーダーが継続する方が望ましい」と述べ、「続投宣言」を行ったのです。
民主党の岡田克也幹事長も2日の民放番組で「いつ辞めるかではなく、しっかり仕事をしてもらうことが大事」「退陣はメディアがつくった言葉で、総理はいっていない」と述べ、「辞任」を真っ向から否定しました。
これに激しくかみ付いたのが鳩山由紀夫前首相です。菅首相の代議士会発言の前に首相と会談し、ここで「復興基本法が成立して、第2次補正予算案の早期編成のめどが立った」時点での辞任の「確約」をとったとする鳩山氏。3日には「(不信任案採決の)直前に辞めるといい、否決されたら辞めないという。そんなペテン師まがいのことを首相がなさってはいけない」「不信任案に賛成しておくべきだった」と非難したのです。
菅首相は3日の閣議で、「通年国会になる可能性があるので、提出を見送っていた法案をどんどん出してほしい」と“意欲”満々。鳩山氏のグループは、両院議員総会を開いて菅首相退陣を迫る準備を開始し、開催に必要な党所属議員の署名を週明けにも執行部に提出するとしています。
同じ党内にありながら、「ペテン師」という言葉まで飛び出す混迷――。鳩山氏の指摘が事実なら、菅首相は党を“だます”形で延命を画策したことになります。一方、密室談合での「確約」にすがる鳩山氏の目も国民に向いていません。東日本大震災の被災者をそっちのけにした「党内政局」はここまできています。
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「党略に手を貸さず」
救援・復興に全力
共産
「『確固たる展望はない』という言い方は失敗だった」「あのことが、随分と(マスメディアで)とりざたされた」―不信任案の提出直前の野党党首会談(1日)の翌日、自民党幹部からこんな声がもれてきました。
幹部らが後悔したのは自民党総裁の谷垣氏の発言。党首会談で、日本共産党の志位和夫委員長が「(不信任案可決の場合)内閣総辞職を求めるとしたら、菅内閣に代わって、どういう政権をつくるのか、政権構想を具体的に示してほしい」と迫ったのに対して、谷垣氏が「確固たる展望をもっているわけではない」と答えたのです。
マスメディアはいっせいに「政権構想は『展望ない』」(朝日)「自民 倒閣後の戦略なく」(毎日)と報じ、民主党内の造反頼みの自公政権の行動に、大義も戦略もないことを浮き彫りにする結果となりました。
野党党首会談を受けて日本共産党は、国会対策委員会で不信任案について突っ込んで検討。1日夜、記者会見した志位氏は次のようにのべました。
「展望がないということは、混乱が起こることを認めたに等しいものだ。党首会談をつうじて、自公の動きは党略的で無責任だということがいよいよ明瞭になった。不信任案に賛成すると、自公の党略的・無責任な動きに結果として手を貸すことになる」
同時に志位氏は、「菅政権に信任できないという私たちの政治的評価はいささかも変わっていないから、反対することもしない」とのべ、不信任案に棄権するとの態度を明らかにしました。
菅内閣は、不信任案否決の当日に開いた「社会保障改革集中検討会議」で消費税を2015年までに10%とし、その後も際限なく増税する方向を決定。「信任できず」を証明しました。
被災者不在の党略とは一線を画す日本共産党。3日放映のTBS系「朝ズバッ!」では司会のみのもんた氏が「“自公の肩をもつわけにはいかない”という共産党の説明はわかりやすかった」とのべました。
「国難のときに、自公も民主も何をやっているのか。共産党がこれに加わらないで、賛成も反対もしないのは、素晴らしい」。党本部には、こうした電話、メールも多数寄せられました。
「いまやるべきことは、まっすぐスピード感をもって被災者の救援をすることです」
不信任案騒動の翌3日、参院予算委員会で日本共産党の紙智子議員の凜(りん)とした声が響きました。被災地そっちのけで「菅やめろ」の大合唱だった自公とは対照的でした。
◆不信任案採決をめぐる動き
【6月1日】
15時 党首討論。自民、公明両党が菅首相に退陣要求
17時 共産、自民、公明など5野党が党首会談。志位委員長が、不信任案可決後の構想などについて自民・谷垣総裁にただす
18時ごろ 自公などが内閣不信任案提出
20時30分 志位委員長が記者会見し、自公の党略的・無責任な動きに結果として手を貸すことはできないとして棄権すると表明
【6月2日】
12時 民主党が代議士会。菅首相が、震災対応などに「一定のめど」がついたら「若い世代に責任を引き継いでもらいたい」と表明。
15時22分 衆院本会議で賛成152票、反対293票で不信任案を否決。共産党は棄権
18時 菅首相が議長を務める社会保障改革に関する集中検討会議が、消費税を2015年までに10%に引き上げることを提起
22時 菅首相が記者会見。「一定のめど」について、「(福島原発の)冷温停止」をあげ、来年1月以降の「辞任」になると示唆