2011年6月1日(水)「しんぶん赤旗」
風評被害 5県の全作物を対象
原賠審が2次指針を決定
東京電力福島原子力発電所事故の賠償範囲を検討する原子力損害賠償紛争審査会は31日、第6回会合を開き、農林水産物への「風評被害」の賠償額算定方法などを盛り込んだ第2次指針を決定しました。
「風評被害」については、4月までに政府の出荷制限指示や自治体の出荷自粛が行われた地域であれば、制限品目であるかどうかにかかわらず対象となりました。ただ、食用に限ります。具体的には、農作物は福島、茨城、栃木、群馬4県の全域と千葉県内の3市町、畜産・水産物では福島、茨城の両県が賠償対象です。買い控えや取引停止によって生じた営業上の損害や、労働者の減収分が被害額となります。
観光業については、福島県に営業の拠点がある事業者を対象に、原発事故のあとのキャンセルなどを損害として認めました。他の地域については、東日本大震災による自粛ムードも解約や予約控えの要因と考えられるとして、引き続き検討することにしました。
第2次指針に盛り込まれなかった「風評被害」の賠償については、審査会に設置する農業や食品産業、観光など17分野の専門委員が6月にも実態調査を始め、範囲を確定する予定です。
避難生活などによる精神的被害については、これまで示してきた体育館や仮設住宅、旅館など避難場所に応じて算定基準をもうけるという考え方について、「被災地からも適当ではないという意見を聞いている」などの理由から、枠組みや具体的な金額の水準について、さらに議論を重ねることにしました。
また、2次指針には、避難指示が行われた地域への一時立ち入り費用や帰宅費用の算出基準、および農作物の作付け制限による損害等についても盛り込まれました。
解説
すべての被害に賠償を
原子力損害賠償紛争審議会が2次指針を決定し、「風評被害」の賠償範囲がひとまず固まりました。
しかし、食用品目のみを対象とし、出荷制限の行われた地域以外は「風評被害」を認めないなど、まだまだ不十分です。今回の会合では、「食用ではない花きや木材はどう扱うのか」という意見が出されました。農林水産省の調べによると、今回の対象に入らない埼玉県産キュウリの価格が原発事故によって3割低下しています。
そもそも原発による「風評被害」を地域や品目で線引きすることが間違いです。放射性物質が基準値を下回っても、消費者が放射線の影響を心配して、特定産品を買い控えするのは避けられない行動です。住民、農林漁業者、中小業者がこうむったすべての損害を賠償するのは加害者である東電の当然の責務です。
「風評被害」については2次指針策定後も議論が続けられます。「線引き」ではなく、すべての被害を賠償することが必要です。 (清水渡)
■関連キーワード