2011年5月31日(火)「しんぶん赤旗」
きょうの潮流
「どんなに生々しい戦場映画でも、絶対に再現できないものがある。それは臭いだ」▼反戦を訴え続けたベトナム帰還兵のアレン・ネルソンさん。亡くなる前の来日講演で、こう語っていました。大規模な戦闘の後、ジャングルで遺体を捜索する際、手がかりになったのが腐敗臭だったといいます。この臭いと腐乱死体が、彼の戦場の記憶でした▼同じような話を聞きました。「臭いをたどっていくと、たいがいそこに埋まっていました」。東日本大震災。いまだ8千人を超える行方不明者の捜索にあたる自衛隊員の言葉です。腐敗臭は遺体発見者の記憶にしみつき、苦しめることになります▼今、深刻な臭いが被災地を悩ませています。水産加工が盛んな三陸地方で大型の冷蔵庫などからサンマやサケなどが散乱し、「鼻をつくような臭いを発して」いると本紙30日付は報道しています。暖かくなればドロドロになるそうです。岩手県大船渡市1万5千トン、宮城県気仙沼市2万トン、石巻市5万トン…。腐った魚介類はうずたかく積み上げられています▼台風2号の影響で、東北地方でも大雨が続きました。梅雨に入れば魚介類の腐敗はいっそう進み、感染症などにつながるとの指摘も出されています。一刻も早い対策が必要です▼震災前、全国でトップクラスの漁獲高を誇っていた三陸地方。おそらく、潮風と漁船のディーゼル油、そして新鮮な魚介類からなる「磯の香り」で満ちていたのでしょう。死の臭いから解き放たれる日が一日も早く来てほしい。